校庭に避難した70名余りの児童は,午後3時30分過ぎまでここに留まった後,教員の指示の下,列を作って交流会館の駐車場を通り,三角地帯の方向に徒歩で向かったが,交流会館の敷地を列の最後尾が通り抜けた頃,津波が付近に襲来した。津波から生き残ったのは,児童4名とE教諭のみで,その余の児童と教職員は全員死亡した。被災児童のうち2名(別紙3被災児童一覧表の番号16及び22の児童)の遺体は,現在まで発見されていない。


まだ発見されていないお子様たちが番号で呼ばれてしまうのだということに、判例文とはそういうものとわかっていても、個人的には、どうにもやりきれない気持ちになってしまいます。

ウ 大川小学校には,午後3時37分頃に津波が到達した。水面は2階建ての管理・教室棟校舎の屋根付近まで達し,校舎と体育館は水没して全壊した。 


「交流会館」は地図でみていただくと大川小学校のすぐ隣ですね。学校からそれだけの距離しか移動できてないのです。先頭のお子さんが避難開始から移動した距離は150m、津波から避難した時間はたったの1分です。14時46分の地震発生から津波到達の15時37分までの時間は51分でした。

ここで地裁判決は、「地震及び津波に関する一般的知見」としてこんなことも書いています。津波防災を学ぶ人は誰でも知っておくべき内容です。

津波の高さ(水位上昇時における津波による水面の高さと津波がなか った場合に予測される水面の高さとの差の最大値)は,沖合の深い海では小さくても,海岸に近づくにつれて大きくなることが知られている。

津波の水位が人の膝を超えると,歩行速度が低下して移動の自由が奪われ,1mの水位で人命に確実に影響するようになり,2m程度以上では確実に死者が発生し,増加する。物的被害としては,津波の高さ1mで木造家屋の部分破壊が起こり,2m程度以上で木造家屋に全面破壊をもたらし,3mを超えると急激に被害率が上がり,極めて重大な災害が発生するおそれがあるとされる。津波から身を守るには,避難が唯一の方法である。 


ところで大川小学校は海から3.8kmあります。判例では以下の事実をもって過失を認定したわけではないのですが、こんな事にも言及しています

(イ)    海に注ぎ込む河川や水路には,海に面する開口部から津波が進入して くる危険があり,河川自体は,比較的津波の遡上しやすい水路とされ,平成15年の十勝沖地震では,十勝川を津波が河口から11km上流まで遡上したことが確認されている。 


また、以下もこれをもって過失認定したわけではないのですが、当時のハザードマップの記載について具体的に紹介しています。

防災ガイド・ハザードマップは,地区別の冊子として取りまとめられ, 市民や関係機関に配布された。その河北地区版では,旧河北町地域の津波 ハザードマップとして,およそ5万分の1の縮尺のカラー航空写真に浸水 深を色塗りする方法で,宮城県の前記津波浸水予測図と同内容の予想浸水 区域が示されるとともに,大川小学校は,避難場所の1つとして表示され た。津波ハザードマップに関しては,本文中で,「この地図は,...津波が発生した場合の市内の予想浸水区域並び各地域の避難場所を示したものです。浸水の着色の無い地域でも,状況によって浸水するおそれがありますので,注意してください。津波に対してはできるだけ早く安全な高台に避 難することが大切です。いざというときに備え,あなたの家から避難場所までの経路,家族の連絡先などを確認しておき,また,危ない場所などを 把握しておきましょう。」と説明されていた。 


大川小学校のハザードマップでは津波浸水域として浸水の着色はされていませんでした。でも、注意書きではなく本文中に、「浸水の着色の無い地域でも,状況によって浸水するおそれがありますので,注意してください。津波に対してはできるだけ早く安全な高台に避難することが大切です」とは書かれていたのですね。

何度も言いますが、この事実をもって過失認定されたわけでないのです。そして後だから言えることなのではありますが、大人がこのハザードマップをもっと深く読み、考えていられたらなと悔しい気持ちになります。さらに、これまた、過失認定に使われた事実ではありませんが、このような記載があります。

(エ) 石巻市教育委員会教頭・中堅教員研修会(甲A10,12の4ないし 6) 
平成22年8月4日開催の上記研修会は,石巻市総務部防災対策課のH危機管理監を講師とする「児童生徒の安全確保・文教対策」との演題での講話を内容として行われ,大川小学校から,D教頭,E教諭外1名が参加した。


この部分、防災を人に伝えている身としては、震災前にどのような防災講座が実施されていたか気になるところです。

この講話のうち児童生徒の安全確保に関する部分では,風水害に関する気象警報等の発表時と,地震や洪水,原子力災害等の災害 発生時とに局面を分けて説明がされ,後者の局面における対応としての避難に関しては,学校自体が危険なときの集団避難の必要性,具体的には,津波危険の場合(震度4以上の強い揺れ又は揺れの長い地震を感じ たとき)には高台への避難,洪水や土砂災害に対しては危険の種類に合 わせた避難を行うべきことが説かれ,講話の最後には,プロアクティブの原則として,「疑わしいときは行動せよ,最悪の事態を想定して行動 (決心)せよ,空振りは許されるが見逃しは許されない」との考え方が紹介された。 


上記、プロアクティブの原則の部分は、今読むと胸が痛みます。「疑わしいときは行動せよ,最悪の事態を想定して行動 (決心)せよ,空振りは許されるが見逃しは許されない」ということを亡くなられたD教頭と生存されたE教諭は聞かれていたのですね。