東日本大震災で被災した宮城県の石巻市立大川小学校(2016年3月11日編集部撮影)


大川小学校津波訴訟の控訴審判決(仙台高裁判決)が今年4月26日に出されました。判決について、宮城県と石巻市は上告を決定しています。

判決に対し、どのような立場をとる方であっても、この大川小学校で74名の児童が死亡あるいは行方不明になり、教員が10名も命を失った無念さと心苦しさは共有できるし、すべきものという認識は共通なのではないでしょうか?

判決文が出ると、要旨が報告され、それについての賛否も目にする機会が増えます。そうすると、なんとなく理解した気持ちになって、議論をしてしまいがちでもあります。

でも、あまりにも辛く悲しい被害でした。朝出かけた子どもに二度と会えない親のつらさは、文章にするのも気が引けるほどです。ですので、今回は、判決がどのような言葉を使って命に寄り添っているか知っていただき、学校防災に関心のある皆様が、判決全文を読んだあとで、議論していただけたらいいなと思って記事にしました。

というのも、この判決が出た直後、誤読情報が流れたので、誤解したままの方も少なくないようです。誤読だけは、亡くなった方たちに申し訳がたたないと思うのです。どのような見解をとる方でも、まず、ここは間違わないようにしておきたいです。

それは、この判決が千年に1度と言われる東日本大震災の津波を、学校や行政に予見すべきとしたわけではないということです。

千年に1度なんて予見できるわけがない。学校に責任を負わせるなんて過大な責任を負わせていてひどい!と未だに憤っている方は、読んでない疑惑が確定に変わるのでご注意を。

判決文では「大川小校長らが予見すべき対象は東日本大震災ではなく、04年に想定された『宮城県沖地震』(マグニチュード8.0)で生じる津波」と明記されています。

ところで、当たり前ですが、高裁判決は、地裁判決を前提にしているのです。大川小学校の地裁判決の結論は、教師の過失を認め国家賠償請求を認めています。このことから、高裁の結論(理由付け)に反対という人の中でも、高裁には反対だけど、地裁の結論(理由付け)には賛成という方もいます。また、高裁にも地裁にも反対という結論がありえます。厳密には高裁と地裁の単純な賛否の組み合わせでも4パターンあります。だから、高裁への賛否がどのような理由に基づくものなのか、少なくとも地裁をしっかり読んで、それへの賛否を明確にしないと説得的な主張になりません。

実際、各地で講演していますが、東日本大震災の記憶が風化していると感じることがよくあります。短大を出たばかりの保育士さんに、大川小学校の状況はなんとなくしかわからないという話をお聞きしました。当時、中学生なのです。そんなわけで高裁判決がでた今だから、まずは地裁全文をみなさんと一緒に読んで考えられたらと思いました。

法律解説ではなく、まずは読んでみようという企画ですので、法律論と関係ない部分も引用しています。けれど、子どもたちの足跡を一緒に感じていただければと思うので、ご容赦くださいませ。

■大川小津波訴訟 地裁判決全文はこちらから
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/266/086266_hanrei.pdf

まず、地裁判決に「当事者間で争いのない事実」として、大川小学校で起こった出来事が記載されています。読んでいるだけで切なくなりますが、状況をご確認ください。

ア 午後2時46分,宮城県沖を震源地とするマグニチュード9.0の本件地震か発生し,石巻市では震度6強が観測された。

イ 大川小学校では,本件地震の揺れか止んだ後,教員か下校前の児童を校庭に避難させたほか,下校を始めていた児童のほとんども校内に戻り又は 留まり,全体では100名余りの児童と11名の教職員が校庭に避難したが,児童のうち27名は,午後3時30分頃までに保護者等によって引き取られて教員の管理下を離れた。 
写真を拡大 震災後の地図を元に再現しているので大まかな位置情報であることをご了承ください。地図中、「しいたけ山」とあるものは、判例では「裏山」と呼ばれています (地図作成 あんどうりす)

さらに判決を読んでいきます。