2018/06/15
アウトドア防災ガイド あんどうりすの『防災・減災りす便り』
これに対し、市や県の見解を判例は検討します。
みぞれやぬかるみで歩きにくいこと、高齢者と一緒であることはどう判断されたのでしょうか?
次に,被告らは,狭い竹木の間の急斜面を登ることの困難をいうものの,Aルートの斜面では,過去に,3年生等の児童が,毎年3月に椎茸の原木をここまで運ぶ作業を行っていた以上,同じ3月に児童がここを登るのが 困難であったとはいえない。
また,Bルートに関しても,登り口付近は約 26度と傾斜が急で,続く斜面も傾斜が20度前後と決して緩やかではないものの,C校長のみならず3年生児童もここを経由して造成斜面に登っていた以上,避難のために登るのが困難であったとまでいうことはできない。
さらに,被告らは,児童と高齢者を含む集団で斜面を登ることの困難をいうが,地域住民は,原則として自らの責任の下に避難の要否や方法を判断すべきものであり,教員は同住民に対する責任を負わないのに対し,児童は,これらの点を全面的に教員の判断に委ねざるを得ないことからすれば,校庭からの避難行動に当たっても,教員としては,児童らの安全を最優先に考えるべきものであって,地域住民の中に高齢者がいることは,児童らについての結果回避可能性を左右しないものというべきである。
校庭には地域の高齢者の方もいらっしゃいました。地裁判決は、教員が考えるのは、児童の安全であると述べられています。みなさんはどう考えるのでしょうか?亡くなったこどもたちが私たちに課した究極の判断の是非について書かれている部分ともいえます。続けて、
けがよりも命が優先される状況では、整列よりも各自が山に駆け上がってもよかったのではと問いかけ、「いたずらに全体の規律ある避難に拘泥すべき状況にはなかったというべきである。」という判例の言葉は重たいです。
続けて、裏山の崩落のしやすさについての言及になります。
この点,本件震災当時5年生であった児童に対する聞き取りによれば,D教頭は,釜谷地区の区長に「山に上がらせてくれ。」と言ったのに対し,同区長が反対していたのを聞いたというのであるが(甲A22の18),このようなやり取りがあったとしても,D教頭としては,区長の意見をいたずらに重視することなく,自らの判断において児童の安全を優先し,裏山への避難を決断すべきであったというべきである。
「クロスロード」という防災ゲームに出てくる題材でもありますね。地域で権威のある人が言ったこちらが安全というものと、自分の判断のどちらを優先すべきかという問題が上記に書かれてあります。
その後、判例は、裏山に逃げる時間的余裕があったか検討しています。3時30分から津波到着まで7分の時間があれば裏山に逃げられたと認定しています。
さて、次の記載も法律論ではなく、事実認定ですので、あまり議論されてこなかったように思います。みなさまはどう思われますでしょうか?
しかし,津波による児童への危険性が抽象的なものにとどまる時点であればまだしも,大規模な津波が間もなく大川小学校周辺にまで押し寄せ,児童の生命身体に対する現実の危険が迫っているとの認識の下においては,裏山に避難することによって児童がけがをするかもしれないという抽象的な危険を,津波に被災するという,児童の生命身体に対する現実的,具体的な危険に優先させることはできないはずである。
こどもにケガをさせないようにしようという日常の発想が命を守るということより優先されてしまったのだとしたらそれは何故なのか、今後、考えなければいけない部分ではないでしょうか。ということで、地裁判決は、
3時30分には裏山に逃げられたということで過失を認定しています。
長い判決文の引用におつきあいいただきありがとうございます。要旨よりは長いですが、全文より短い文章です。
実は、この記事は、書いては消しと2週間も連載をお休みにしたほどです。ただ判例を引用しているだけなのに、子どもたちのことを思うと、全く書けなくなりました。
みなさまがどのようなご意見であるかとか、どのような結論であるかに関わらず、判例の記載をじっくり読んで議論していける人が増えるといいなと思っております。原文を見て、はじめてわかることってありますから。
こんな調子で高裁判決を本当に書けるかかなり怪しいですが、応援いただければ幸いです。どんなご意見の方とも一緒に、こどもたちの悲しさと悔しさを少しでもわかちあえますように。
(了)
アウトドア防災ガイド あんどうりすの『防災・減災りす便り』の他の記事
おすすめ記事
-
企業理念やビジョンと一致させ、意欲を高める人を成長させる教育「70:20:10の法則」
新入社員研修をはじめ、企業内で実施されている教育や研修は全社員向けや担当者向けなど多岐にわたる。企業内の人材育成の支援や階層別研修などを行う三菱UFJリサーチ&コンサルティングの有馬祥子氏が指摘するのは企業理念やビジョンと一致させる重要性だ。マネジメント能力の獲得や具体的なスキル習得、新たな社会ニーズ変化への適応がメインの社内教育で、その必要性はなかなかイメージできない。なぜ、教育や研修において企業理念やビジョンが重要なのか、有馬氏に聞いた。
2025/05/02
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方