アマゾン・スタジオが手がける大作ファンタジードラマ『ロード・オブ・ザ・リング(力の指輪)』で、有色人種のキャストに対する人種差別や誹謗中傷の書き込みが相次ぎました。これに対しアマゾンは公式Twitterで、ハッシュタグ「#YouAreAllWelcomeHere(すべての人を歓迎します)」と添え、「有色人種のキャストたちが日常的に受けている容赦ない人種差別、脅迫、ハラスメント、中傷に反対します。私たちは、これらを無視も容認もしません」と抗議する声明を投稿しました。

このように、企業が自社サイトやSNSなどで社会的な課題に対する自社の姿勢(スタンス)やビジョンを示すことは一般的になりつつあります。その発信は個人/機関に関わらず投資家を含むステークホルダーに注目され、今や企業価値に直結しています。

SNSで共感が広がるようになった現代、売上や利益だけでなく、働く人の権利や価値観を尊重しなければ、会社は発展し続けられません。では、これからの時代に評価されるESGコミュニケーションとはどのようなものでしょうか?

なぜESGコミュニケーションをやらなくてはいけないのか?

ESGとは「環境」「社会」「企業統治」の3つの観点のことで、現在、企業の長期的な成長のためには、この3つが必要とされています。

環境 E:「気象変動対策」「エネルギー問題」「地球温暖化対策」「生物多様性の保護活動」など
社会 S:「人権への対応」「顧客対応」「従業員との関係」「地域貢献活動」など
企業統治 G:「法令遵守(コンプライアンス)」「リスク管理」「社外取締役の独立性」「情報開示」など

しかし、さまざまあるこれらの要素は、一見、対策にコストがかかるだけで、利益に関係がないように感じる方も少なくありません。

例えば、従業員との関係を考えた場合、社員口コミから組織文化の良さを定量化したOpenWorkの調査によれば、企業の業績や株価変動に相関性があることが確認できたとしています。そしてこれらのスコアは、企業評価やリスク管理などに有効な指標になる可能性があるとしています。

また、気象変動リスクに対策するコストを考えた場合、英国スターン・レビュー報告書の推定によれば、今から対策するコストと対策をしない場合の将来損失を比較した場合、損失の方が5倍以上も大きいとしています。

よって、中長期的な経済合理性の観点からもESGに取り組み、その取り組みを内外のステークホルダーに情報発信し、コミュニケーション施策を行うことは、ビジネスにおいて大切な要素になるのです。

日本では、まだESGに関する意識は海外より遅れていますが、コミュニケーション戦略のリスク管理の観点からも、企業の経済的な価値に大きく関係するため、これからの時代はESGコミュニケーションが必要になると考えます。ESGコミュニケーションに取り組まなければ、事業の成長を減速させる要因を増やし、リスクが顕在化しやすくなるでしょう。