せっかくBCPを整備してきたのに本当に役立つのかと、疑問を持たれることは少なくありません。特に、危機ごとにBCP策定を進め、全ての災害に対応するために個別マニュアルが増え続けると、現場の評判は芳しくありません。なぜなら、現場では使えない“お荷物”になっているからです。今回から3回にわたって、視点を変えたBCPの考え方を紹介します。
■事例:お荷物化するBCPs
Aさんは都内に本社を構える中堅メーカーの総務部で危機管理を担当しています。同社では、東日本大震災を契機に災害対策の重要性が再認識され、「何かあったときに業務を止めずに済む体制を」という社長方針のもと、BCP整備が急ピッチで進められました。
最初に取り組んだのは「地震時の対応マニュアル」の作成です。社員の安否確認、通信手段、代替拠点の確保など細かな項目を一つずつ検討する作業は困難を伴いました。マニュアルの完成で災害対応の「見える化」が進み、Aさんは一定の成果を出せたと感じていました。
その数年後に西日本を襲った豪雨災害では、気象庁の特別警報、河川氾濫、物流が停止しました。その際、取引先から「水害対応はどうなっているのか」との問い合わせが来ました。水害BCPに手を付けていなかったAさんは、慌てて策定に乗り出しました。
次に降りかかってきたのはパンデミックです。新型コロナウイルスの感染拡大により、出社制限、テレワーク、消毒ルールなどを盛り込んだ「感染症BCP」を整備しました。その後も、サイバー攻撃、熱波や猛暑、停電、さらには近年増えてきた地政学的リスクなど、災害や社会リスクが話題になるたびに、BCPの種類は増えました。気づけば、10種類以上のBCP関連の計画書が存在し、各部門に配布されたマニュアルは分厚くなっています。
ある時、製造部門の現場マネージャーがこう話しかけてきました。
「BCPって、もう何が何だか分かりません。地震の場合は、停電の有無によってブレーカーを落とすかどうか判断しろとある一方で、水害では即座に電源遮断とされていて、停電の有無は判断基準にはなっていません。そもそも全部覚えるなんて無理ですよ」
Aさんは返す言葉がありませんでした。確かに、災害ごとの対応策を増やしすぎたせいで統一性は薄れ、現場にとっては種類も多く、書き方も冗長で実際に行動する際に、「どこの何ページを見ればいいのか、わからない」状態に陥っていました。別の日には総務部の若手社員からこう言われました。
「これって、何かが起きるかばかりですよね。でも現場では、具体的にどうすればいいかが大事だと思うんです。日中なのか、夜中なのかで対応は全然変わると思います」
結果的にBCPは「何が起きても業務を止めない」ための計画だったはずなのに、いつの間にか「全ての災害にそれぞれ対応する個別マニュアル集」になり、現場では使えない“お荷物”になっている
Aさんは「災害別じゃなく、考え方を変えたBCPが必要なのではないか」と考えていますが、どうすればいいのか全くわかりません。
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