2015/01/20
C+Bousai vol2
市町村の職員は、「No」を選ぶ方が少なくありません。なぜなら、避難所での生活はその日で終わりというわけではないので、後々までの影響を考えるのです。つまり、不公平という評判が流れるリスクを入れて考えるわけですね。
一方、一般の方は、高齢者や子どもから配るなど、「Yes」を選ぶ傾向にあります。これは1つの例ですが、立場によって答えは変わってくるし、やはり正解はありません。
設問によっては、「正解は必ずあるはず」と批判されることもあります。しかし、考えてみてください。すべての人が正解と思っている状態が最も危険なのです。それは、すべての人にとって「想定外」になっている部分が存在する可能性があるからです。私たちは2011年の東日本大震災で、そのことを経験したはずです。
阪神・淡路大震災が発生したときの神戸市のマニュアルは、全職員の参集を前提としていたため役に立ちませんでした。当時の対応を神戸市のある職員は「『そのとき、その場で、みんなで正解をつくる』連続だった」と話されました。クロスロードは『そのとき、その場で、みんなで正解をつくる』練習なのです。
西澤:私は「正解がない」のが非常に重要だと思います。地区防災計画の策定にあたって、各地の訓練を見てきました。防災は、住民が「我が事」として受け止め参加して初めて身につくものなので、工夫が必要になります。
食料を配るにも立場や置かれた環境によって判断も変わります。この違いを認識してもらえれば被災者も柔軟に考えられるはずです。
矢守:3.11の後に考えたのが個別避難訓練タイムトライアルです。一般的に、避難訓練には多くの人が参加しますが、この訓練は個人または家族で行います。訓練者は、自宅の居間などから自分が選んだ避難場所まで実際に逃げてみます。この一部始終を、防災学習を兼ねた地元の小学生たちが2台のビデオカメラで撮影します。訓練者は、GPSロガーを持っていて、何分後にどこにいたかが地図上に表示される仕組みです。
この訓練にも、すべての人に共通する正解はありません。自ら避難してみてはじめて、その人なりの正解が見えてきます。だからこそ、その人本人が訓練に参加する意味が出てくるわけです。
南海トラフ地震の想定で、最悪の場合、20分程度で津波が襲ってくる地域である高知県四万十町興津地区のケースでは、おじいちゃん、おばあちゃんたちに近くの避難所まで逃げてもらいました。これを動画で撮影し、GPSで記録した避難の軌跡と想定される津波の動きとを合わせて「動画カルテ」をつくります。「動画カルテ」は地震発生からの経過時間に沿って表示され、津波が追いかけてくる様子が一目瞭然ですので、一つひとつの行動や判断が適切だったのか、改善点はどこなのか一目で分かります。
C+Bousai vol2の他の記事
- 特別対談|意欲的に取り組める防災教育「正解のない」問題を考える 災害経験を風化させないため
- 「60分ルール」で津波から守る 訓練のリアリティを追求する (神戸市長田区真陽地区)
- 若い世代も巻き込んだ防災活動 子どもが喜べば親も来る (神戸市須磨区千歳地区)
- コミュニティが町を救う 震災前に30年間のコミュニティ活動 (神戸市長田区真野地区)
- 毎月定例会毎年訓練と見直し (神戸市中央区旧居留地連絡協議会)
おすすめ記事
-
企業理念やビジョンと一致させ、意欲を高める人を成長させる教育「70:20:10の法則」
新入社員研修をはじめ、企業内で実施されている教育や研修は全社員向けや担当者向けなど多岐にわたる。企業内の人材育成の支援や階層別研修などを行う三菱UFJリサーチ&コンサルティングの有馬祥子氏が指摘するのは企業理念やビジョンと一致させる重要性だ。マネジメント能力の獲得や具体的なスキル習得、新たな社会ニーズ変化への適応がメインの社内教育で、その必要性はなかなかイメージできない。なぜ、教育や研修において企業理念やビジョンが重要なのか、有馬氏に聞いた。
2025/05/02
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方