形骸化を防ぐためには必要性の理解が不可欠

防災訓練はどうしても形骸化する傾向にあります。

矢守:バケツリレーなどの初期消火訓練や土のう積みは確かに形骸化しやすいです。ですが、私はこういう話をしています。

各市区町村の行政職員はおおよそ人口の100分の1です。これは教員なども入れたおおまかな人数です。そのうち消防職員は10分の1。つまり人口の1000分の1がその自治体の消防職員の数です。裏を返すと1000人が1人の消防士に頼って暮らしています。消防車と救急車の台数はさらにその10分の1で住民1万人に1台です。たったこれだけです。消防士は交代しながら勤務につくわけですから、実際に消火にあたる人数はさらに少ない。

阪神・淡路大震災のときには地震直後の5時45分から6時までの15分間に発生した火災は分かっているだけで50~60件です。人口100万人の都市ですら、消防隊員の全てが消火作業にあたれる時間帯だとしても、稼働できるのは1000人の隊員と100台の消防車です。小さな火災現場1カ所でも、消防車は普通10台近くやってきますから、対応できるのはほんの数カ所ほどです。地震で道路も寸断されますから、到着までにどのくらい時間がかかるのかわからない。圧倒的にリソースが不足しているので、同時多発的な火災は消防だけでは対応できない。この事実を説明すると、バケツリレーのような基本的なことでも繰り返しやっておかねばいけないと理解してもらえるようになります。


例えば、土のう積などの訓練は、どれだけ機能するのか参加者の理解を得ることは難しいのではないでしょうか?

家族で参加できる防災訓練(イメージ)

矢守:土のう積みの重要性を体験する機会は少ないと思いますが、2013年9月に台風18号による集中豪雨で特別警報が初めて発せられたときのことです。京都・嵐山では旅館などが浸水し、渡月橋が濁流にさらされました。このときは国土交通省・近畿地方整備局が複数のダムを調節して、桂川の水位低下に努めていました。その効果で数十センチの水位上昇を防いだと推定されています。それでも、嵐山よりも下流では、桂川と鴨川の合流地点付近で堤防から越水しました。しかし、小畑川水防事務組合の方々や自衛隊が土のうを積んで、数十センチの高さを確保したおかげで、地域の浸水はなんとか食い止めることができました。つまり、ダムだけで防災しているわけでもないし、土のうだけで防災しているわけでもない。防災全体の関係性の中で、それぞれの役割や訓練の重要性を位置付けてお話するようにしています。

西澤:海外の方が日本の小学校の防災訓練を視察すると、感動され非常に高く評価します。子どもたちが一斉に机の下に隠れ、並んで歩いて避難する。避難所となる体育館で列をつくる。私たちが当然だと思っていることが、彼らの目には新鮮に映るようです。このような訓練は、私たちには珍しいことではありませんし、形骸化しているように思われることもありますが、東日本大震災を振り返っても、小中学生の避難で有名な釜石の事例もありますので、訓練を繰り返すことが重要であると言えます。