炎上の中身を見極め
自社の立ち位置を定めなければ対応できない

最近の炎上について専門家4人による座談会(5月19日、新建新聞社東京本社)

インターネットで批判や非難が殺到する「炎上」は、もはや特異な事象ではない。レピュテーションの棄損をともなって、日々あたり前のように発生している。いわば発生頻度が高く、かつ、予想以上に影響の大きなリスク。企業においては自然災害などと同様、常に意識して備える姿勢が必要だろう。炎上が日常化した社会、どのような環境が企業を取り巻いているのか、そしてどう向き合えばよいのか。最近特に注目を集めている3つの炎上事案を例に、4人の専門家とともに考えた。

1.「寿司テロ」の頻発をどう見る?

感情的な反応が押し寄せる怖さ

――さまざまな炎上が日々発生し、もはや常態化しています。このような社会のなかで企業はどう備えればよいのか。まず、ここ最近の炎上はどのような傾向にあるのでしょうか?

奥村 2020年以前に多くみられたのは、企業の情報発信やプロモーションが不適切とみなされて炎上するケース。これに対し直近は、個人の行為が不適切とみなされて炎上するケースが増えている印象です。

――頻発している迷惑動画のSNS投稿、いわゆる「寿司テロ」も個人の行為ですね。ただ、この場合は従業員ではなく顧客の行為ですから、企業側は被害者になる。そして炎上によって加害者へのバッシングがエスカレートすると、一転して加害者が被害者のようになってしまう構造があります。

吉野 寿司テロは「これだけ騒動になって叩かれているのに、なぜ次々やるのだろう?」と疑問に思いますよね。しかし実は、過去の投稿が発掘されているケースが多いのです。

2020年代の炎上で特徴的なのは、いわゆる「鍵アカ」などによって限られた人しか見ていないはずの投稿を、誰かが保存していて、それが何かのきっかけで話題になると再投稿され、インフルエンサーなどにもリンクされて広がるパターンです。

たぶん、内輪の悪ノリ、悪ふざけといったタイプの迷惑行為は、日々誰かがどこかでやらかしている。そのうちのごく一部が動画で撮影され、そのまたごく一部が世に出てきてしまって、それを見て感情的に反応してしまう人が群がってくるのだと思います。

石川 過去の投稿が掘り起こされるのは、どのぐらいまで遡ってなんでしょうか?

吉野 体感としては1~2年前ぐらいですね。

奥村 東京五輪・パラリンピックの際には、著名人の雑誌のインタビューやユーチューブ動画が相当昔に遡って掘り起こされましたが、一般人の行為ということでいえば、その体感に近いと思います。

石川 そうした現象が起きるのは、おそらく、ソーシャルメディアで個人が盛んに発信し始めてからだと思います。私が以前に調査したときは2006年に日本でブログがものすごく増え、そこから炎上も増えましたから、2006年が元年のような認識でいます。

釜石 スマートフォンの普及が大きいと思います。ガラケーの時代は動画の撮影時間も短かったですし。写真がきれいに撮れて、顔がきちんと見える状態で、手元で何をしているかがわかるようになってからという印象です。

「鍵アカ」で投稿した動画が再投稿され、拡散するケースも多い(イメージ:写真AC)

石川 過去の出来事が掘り起こされること自体は、今も昔も変わりませんよね。例えば田中角栄の功罪などは、いまだに検証され続けている。ただ、これまでそうした掘り起こしを行うのは主にマスメディアだったのですが、現在は一般の人たちがやるようになったのだと思います。

メディアがやっていたことを一般の人もできるようになったというのが、ソーシャルメディア以後の特徴です。そこにはよい面もあるでしょうが、先の迷惑動画の掘り起こしをはじめ、嘘の情報、誹謗中傷など、よくない面もありますよね。

奥村 現代の1日分の情報量は、江戸時代の1年分に匹敵するとの話もありますが、大量の情報の中にはさまざまなものが入り混じっています。それらには表面的なものも多く、リスクの火種になることもありますし、真実を見極める際にノイズとして障害となってしまうこともあります。

自社だけでなく社会を守るメッセージ

――社会的な影響の大きい事案は、問題点を検証し、原因を明らかにして、再発防止や改善・改革につなげないといけない。そのためには過去の掘り起こしや世論のあと押しが必要なこともあると思います。こと「寿司テロ」に関しては、ネット世論は何を求め、何を追及しようとしているのでしょうか?

吉野 迷惑行為の投稿を行った学生が、ネットで掘り起こされ、追及され、炎上した結果、非難が学校にも行き、友だちや知り合いにも白い目で見られる。場合によっては、個人的な情報をネットにさらされる。そうなると、退学に追い込まれることもやはり多いようです。

――新型コロナで第1回緊急事態宣言が出たとき、いわゆる「自粛警察」と呼ばれる人たちが、開いている飲食店や遊んでいる人を叩いたことと構造が似ている気がします。

吉野 根底にはルール破りに対する反感、反発がありますね。社会的に決められたことや求められたことを「自分は守っているのに、守らない人がいるのはおかしい」という理論。そうした人から見たら、ルールを守らないのは社会の秩序を乱す悪、だから叩く、と。

しかし「寿司テロ」の場合、第三者が叩くことで何かよい結果になるかといえば、実は何にもならないと思います。叩かれた人は、迷惑行為をしたとはいえ、退学したり、就活ができなかったり、文字どおり人生が叩き潰される。一方、被害を受けた企業は救われるかというと、それによって売上や株価の下落といった経済損失を埋められるものではない。叩いている人たちも、たぶん、よいことは何もないでしょう。

私は以前、炎上に参加している人たちを「祭り型」と「制裁型」の2つのタイプに分けて分析したことがあります。このうち「制裁型」動機が強い人は、見知らぬ他者を助ける行動の頻度が低い傾向がありました。例えば「電車で人に席を譲る」「寄付をする」「ボランティアをする」といった行動をあまりしていないのです。ネットでどこかの高校生を叩くより、電車でお年寄りに席を譲った方がみんな幸せになれるのですが。

「寿司テロ」は迷惑行為を行った加害者が過剰な社会的制裁を受けることも(イメージ:写真AC)

石川 実際、迷惑行為をした学生が過剰に社会的制裁を受けてしまうことは多いですよね。「寿司テロ」で被害を受けたスシローの対応がよかったと思うのは、企業としての毅然とした対応を打ち出すだけでなく、加害者の少年に過剰な攻撃はしないでくださいというメッセージを発信したことです。このことは非常に高く評価しています。

――このケースでは企業は被害者で、かつ、炎上によってダメージが拡大しています。そのなかで適切な防衛、適切な対処というのは、なかなかできることではないですよね。

石川 リスクは予測することは大事ですけれども、すべてをこと細かに洗い出すことはまず不可能。そのため、リスクが顕在化したときにどう行動するのか、初動だけでも決めておくことが大事です。危機管理広報の場合、誰が被害を被っているのか、自分たちはどういう立場なのかによって、第一報のメッセージは変わります。初動を間違えないことです。

「寿司テロ」の場合、確かに企業は被害者の立場です。顧客を守るため、会社・社員を守るために毅然とした対応を行うのは当然だとしても、一方で、企業は社会の担い手でもあります。社会をよりよくしていくために自分たちは何を望むのか、何ができるのか。そうしたメッセージはあってしかるべきで、それは企業の価値を高めると思います。