2024/03/17
令和6年能登半島地震
輪島朝市通りは色を失ったまま動きを止めていた。支援や調査にやって来た集団が、無作為にカメラを向けている。
燃えた区画と燃えなかった区画の境界は唐突だ。焼失した建物から3メートル、道を挟んで立っている酒屋は、裏手の家がのしかかっているものの、それ自体は傾いても焦げてもいない。看板には大正元年創業と書かれている。
「木造で木あらわしの外壁。火の勢いを考えたら燃え移ってもおかしくなかった。ここで延焼が止まったのは、やはり道路が防火帯になったんでしょう。風の影響とかもあるだろうから、一概にはいえませんが」。火災の調査に来ていた企業の社員がそう話す。
朝市通りを抜け、右手の交差点では横倒しになった7階建てのビルがそのままだ。歩道はタイルがめくれ上がり、ところどころマンホールが突き出して、歩きにくい。周辺の住宅地では電線が垂れ下がり、崩れ落ちた家の屋根が車を押しつぶしている。がれきがあちこちで道にはみ出している。
「最近まで、強めの余震がダメ押しになって、傾いた家がドスンと倒れたりした。地面の亀裂もまだ広がっているんじゃないかな」と、市外から職場に通っている男性。ライフラインは復旧が進んでいるものの、がれきの撤去や建物の解体、生活道路や町並みの修繕はこれからだという。
赤やオレンジのビブスを付けた県外からの応援職員が、道端で話し込んでいる。ファイルを抱えた調査員が、忙しく写真を撮っている。「昨日着いたんです。1週間ずつ交代しながら、避難所でお年寄りのケアをします」。岡山から来たという災害福祉支援チームの女性がそう教えてくれる。
平日の昼間のせいか、外に出ている住民は少ない。ボランティアの姿も見えない。時折、修理業者の車が路地をそろそろと走っていく。「最初は警察やら消防やら、たくさん人がいたんだけど、いまはおらんようになった」と、そば屋を営む男性は話す。
自宅は離れた場所にあって無事だったが、店の建物は隣の家にもたれかかった。時々様子を見に来て、中を片付けている。「この辺りの人はほとんど避難している。この店も、近いうちに撤去です。輪島は本当に人がおらんようになるね」と小さく笑った。
すぐ近くで酒屋を営む女性も店を片付けていた。建物は斜めに傾き、応急危険度判定の貼り紙は赤だ。本震の瞬間を「あ、私、ここで死ぬんだと思った」と振り返る。大津波警報が出て高台に避難、しばらくして数百メートル西の朝市通りで火災が起きた。「怖かった。この先どうなるのか全然わからなかった」
女性の自宅も別の場所にあるという。「いまはみんな2次避難している。大半の人は週末に帰ってきて片付けしてますよ。復興ですか? そうですね、時間かかるでしょうね」。そういうと、軽く会釈をして歩き去っていった。
4年半前の夏に訪れたとき、港から見た日本海は穏やかで、通りでは観光客が明るい声で騒いでいた。いまは開いている店もない。観光センターや売店が入る「道の駅輪島」も閉鎖中だ。ただ、その脇にポツンと立つみやげもの屋に、輪島塗のお椀やお箸、湯吞みなどの漆器、小物がきれいに並んでいた。
「ようやく片付けが終わったところ。在庫が少しあったから、並べてみたんです。そのほうが私も落ち着くし、買ってくれる人がいるとうれしいから」。店主の女性がそう話す。近くの中学校に夫とともに避難したが、1週間後、電気が復旧すると戻ってきた。店の2階が住まいだという。
本震の瞬間は、家具や電気製品が目の前を飛び交った。躯体が何とか持ったのは、耐震補強として内部に設置した木製のブレースが効いたからかもしれないと話す。「配管は壊れてしまった。でも、運よく、すぐ直してもらえました。2月半ばくらいから、一応、水も使えます」
先日、2次避難している知人の娘さんから金沢で働き口が決まったと連絡が来た。「私たちはもういいけれど、若い人は稼がないといけない。ここでは、住むところもまだ手当てできないですから。でも、みんながんばってくれている。時間はかかるかもしれないけれど、いつかまた来てほしい」
誰かがどこかでトントンと屋根を直している。遠くから重機の音が聞こえてくる。3月14日輪島市。明日は、のと里山海道の下りが全線で復旧する。明後日には北陸新幹線が敦賀まで延伸する。能登半島地震から、もうすぐ3カ月。
(3月14日、写真・記事:竹内美樹)
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