2014/04/10
防災・危機管理ニュース
5.連携を実現している事例
以下は企業間連携において参考となる事例である。
(1)取引先連携
①ある自動車メーカーでは、幅広い製品ラインアップの中から、発災時に優先的に生産する重点製品をあらかじめ決めておき、重点製品は生産再開日数の目標を設定するとともに、その短縮に取り組んでいる。また、この重点製品と生産再開目標に関する情報をサプライヤーと情報共有している。
②ある自動車メーカーでは、サプライチェーンのデータベースを構築し、平時は情報精度の向上に努め、非常時には迅速に情報を把握できる体制を構築している。
③ある小売会社では、取引先に対して、衛星電話の導入を推奨し、災害時に通信手段が途絶することがないような環境整備に取り組んでいる。
同社では、取引先との間で、災害時の緊急仕入先と緊急連絡先を明確化し、災害時の発注方法を再確認している。
(2)同業者連携
④ある中小企業では、近隣の同業他社と災害時の代替生産に係る協定を締結している。この協定では、代替生産に必要な情報や製造ノウハウを互いに開示し、転注が生じた場合の賠償金の支払い等のペナルティ条項も存在する。
⑤遠隔地にある神奈川県メッキ工業組合と新潟県鍍金工業組合同士で、業界団体同士では初めてとなる事業継続に係る協定を締結した。
協定内では、委託代替生産等も明記している。
(3)地域連携
⑥愛知県明海地区の工業団地では、道路・橋梁が被災し、地区全体が孤立化することを想定し、地区の協議会で、地区全体のBCP、とりわけ、津波に対する緊急避難計画を策定し、共同で避難訓練を実施し、課題を洗い出した。
⑦仙台空港岩沼臨空矢野目工業団地では、東日本大震災後、団地内の協議により、対策本部を立ち上げ、復旧の取り組みを率先して実施した。具体的には、企業の要望を集約し、一元化した。その上で、仮設電柱の敷設に必要な土地利用の内諾を個々の企業から取り付け、電力会社や自治体と交渉した。結果として、震災後2カ月で同地区の仮通電を実現した。
(以上①~⑦の出典:経団連企業間のBCP/BCM連携の強化に向けて(2014年2月))
6.おわりに
事業継続力を高めるという点では、代替性(複数の選択肢)の確保が重要である。ある一つのリソースに依存している場合、それが利用不能となってしまうと事業の継続が極めて困難となる。一方、代替策を複数用意しておけば、いずれかが生き残る可能性が相対的に高くなり、事業の継続可能性が高まることになる。
本稿で述べてきた連携は、取引先や同業者、地域のリソースを活用することで事業継続に関する代替策を確保・拡大させることに他ならない。あらゆる企業はサプライチェーンの中に存在することから、自社単独のBCPだけでは事業継続は困難である。サプライチェーンにおける供給責任を果たし企業を存続させるためにも、調達先や販売先、同業者との連携が重要となる。
現状では連携の取組は緒に就いたばかりともいえるが、これは相手先あっての取組ゆえに簡単には解決できない課題も多いことを示している。
しかしながら、連携によって得られるメリットの大きさを改めて評価し、平常時から相手先との信頼関係を構築し、お互いにメリットある連携を構築することが望まれる。
既にBCP構築済みの企業であっても、他社との連携も視野に入れた見直しを積極的に行い、連携を実現させることで、更に事業継続力をより高めていただきたい。
[2014年4月発行]
【お問い合せ先】
(株)インターリスク総研 コンサルティング第二部
TEL.03-5296-8918
http://www.irric.co.jp/
転載元:株式会社インターリスク総研 InterRisk Report No.14_001
インターリスク総研
防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/17
-
サイバーセキュリティを経営層に響かせよ
デジタル依存が拡大しサイバーリスクが増大する昨今、セキュリティ対策は情報資産や顧客・従業員を守るだけでなく、DXを加速させていくうえでも必須の取り組みです。これからの時代に求められるセキュリティマネジメントのあり方とは、それを組織にどう実装させるのか。東海大学情報通信学部教授で学部長の三角育生氏に聞きました。
2025/06/17
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方