5.連携を実現している事例
以下は企業間連携において参考となる事例である。

(1)取引先連携
①ある自動車メーカーでは、幅広い製品ラインアップの中から、発災時に優先的に生産する重点製品をあらかじめ決めておき、重点製品は生産再開日数の目標を設定するとともに、その短縮に取り組んでいる。また、この重点製品と生産再開目標に関する情報をサプライヤーと情報共有している。
②ある自動車メーカーでは、サプライチェーンのデータベースを構築し、平時は情報精度の向上に努め、非常時には迅速に情報を把握できる体制を構築している。
③ある小売会社では、取引先に対して、衛星電話の導入を推奨し、災害時に通信手段が途絶することがないような環境整備に取り組んでいる。

同社では、取引先との間で、災害時の緊急仕入先と緊急連絡先を明確化し、災害時の発注方法を再確認している。

(2)同業者連携
④ある中小企業では、近隣の同業他社と災害時の代替生産に係る協定を締結している。この協定では、代替生産に必要な情報や製造ノウハウを互いに開示し、転注が生じた場合の賠償金の支払い等のペナルティ条項も存在する。
⑤遠隔地にある神奈川県メッキ工業組合と新潟県鍍金工業組合同士で、業界団体同士では初めてとなる事業継続に係る協定を締結した。

協定内では、委託代替生産等も明記している。

(3)地域連携
⑥愛知県明海地区の工業団地では、道路・橋梁が被災し、地区全体が孤立化することを想定し、地区の協議会で、地区全体のBCP、とりわけ、津波に対する緊急避難計画を策定し、共同で避難訓練を実施し、課題を洗い出した。
⑦仙台空港岩沼臨空矢野目工業団地では、東日本大震災後、団地内の協議により、対策本部を立ち上げ、復旧の取り組みを率先して実施した。具体的には、企業の要望を集約し、一元化した。その上で、仮設電柱の敷設に必要な土地利用の内諾を個々の企業から取り付け、電力会社や自治体と交渉した。結果として、震災後2カ月で同地区の仮通電を実現した。

(以上①~⑦の出典:経団連企業間のBCP/BCM連携の強化に向けて(2014年2月))

6.おわりに
事業継続力を高めるという点では、代替性(複数の選択肢)の確保が重要である。ある一つのリソースに依存している場合、それが利用不能となってしまうと事業の継続が極めて困難となる。一方、代替策を複数用意しておけば、いずれかが生き残る可能性が相対的に高くなり、事業の継続可能性が高まることになる。

本稿で述べてきた連携は、取引先や同業者、地域のリソースを活用することで事業継続に関する代替策を確保・拡大させることに他ならない。あらゆる企業はサプライチェーンの中に存在することから、自社単独のBCPだけでは事業継続は困難である。サプライチェーンにおける供給責任を果たし企業を存続させるためにも、調達先や販売先、同業者との連携が重要となる。

現状では連携の取組は緒に就いたばかりともいえるが、これは相手先あっての取組ゆえに簡単には解決できない課題も多いことを示している。

しかしながら、連携によって得られるメリットの大きさを改めて評価し、平常時から相手先との信頼関係を構築し、お互いにメリットある連携を構築することが望まれる。

既にBCP構築済みの企業であっても、他社との連携も視野に入れた見直しを積極的に行い、連携を実現させることで、更に事業継続力をより高めていただきたい。

                      [2014年4月発行]

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転載元:株式会社インターリスク総研 InterRisk Report No.14_001
インターリスク総研