「壁ドン」はセクハラ認定された例も。なんでこうなってしまうんだろう

学校の案内をするためにももさんの手をとる犬飼くん。え、いきなり初対面で手をとるって。私はイヤだと思うけど、ももさんは「やばい。私の心おちつけ」とか言ってます。

犬飼さんのセリフは、「災害が起きた時、どこを通ってどこに逃げるかそれを知っているだけで、ずいぶん生存率が違うんだよ」というもの。この画面で出てくるのは、学校の避難経路のピクトグラムです。

(Pixabay)

ここでは、非常口のピクトグラムよりもハザードマップに基づく避難経路を説明してほしかったなと思っていたら、ももさん、その避難経路や生存率の違いについての質問をしたりせず、いきなり「私は犬飼くんに助けてもらいたいな」。

・ ・・・・・・・

え???あのー。

行政は自助・共助・公助ということで、自助もすすめています。自分で判断して自分で行動する率先避難者になることもすすめられています。なのに、誰かに助けてもらいたいって、人まかせ全開で、びっくりしました。

でも、驚くのはまだ早かったのです。この後の展開は、すべての防災の内容を忘れるほど衝撃的で・・。ももさん、岡山県の「きび男子 公式ホームページ」のキャラクター紹介でも書いていますが、

素直で心優しい高校2年生。引っ込み思案で内気な面があるが、それは彼女が持っているもう一人の人格 「うらら」の存在を知られたくないが故だった。 晴れの国学園への転校、そして、きび男子との出会いが、ももに変化をもたらす。 

好きな食べ物:フルーツパフェ

■岡山の県政がわかるオリジナルアニメ『きび男子』特設サイト
http://www.pref.okayama.jp/chiji/kocho/kenseipr/character.html


ドキドキすると人格が入れ替わり うららさんになるというキャラ設定なんですって・・・。行政PRで大丈夫かな。このキャラ設定。と、防災とは関係のないところで心配になってきましたが、猿彦さんという別の生徒会役員が倒れそうになるももさんを抱き上げたり、犬飼さんが「ももちゃんも、うららちゃんも魅力的だよ。さあ、こっちへおいで」というセリフまで約1分間、人格入れ替わりのシーンが丹念に説明されていました。ここは、みなさんがお好みでご確認ください・・・。

で、校舎裏の倉庫に行くと、防災倉庫の備蓄品の入れ替えをしている生徒会役員の神鳥さんに出会います。ちなみに、犬飼、猿彦、神鳥、それに留学編のアレク先生も加えて「きび男子」だそうです。

災害備蓄品が3日あることが紹介されて備蓄が大切という話題になり、神鳥さんが備蓄用の水をももさんに「飲みますか?」と言って渡します。ローリングストックについても、内容のみ一言説明されるのですが、その後の展開もびっくりで備蓄の話題どころではなかったです。

神鳥さん、ももさんの飲みかけの水を奪い取って(原文のまま)残りの水を飲み干してしまうという・・・・。

災害時は感染症を防ぐため、ペットボトルの飲み物を回し飲みすることは避けなければいけません。それだけではなく、神鳥さん「今度、補充用の水を買いにいくのに付き合ってくれませんか」といって迫ってくるんですけど・・。

さらに、迫ってくるのは、神鳥さんだけでなく、犬飼さんも「俺が今考えていることわかる?」とか言って壁ドンです。

犬飼さん「防災に一番必要なのは想像力。前もって想像していれば、どんなときでも慌てずに対処できるんだよ」

ももさん「だめ。そんなに近づいたら私、対処できない」


・・・・・・・・・・・・(あんどう 絶句中)

残念ながら壁ドンでセクハラ認定された判例もあるくらいですし、内閣府も男女共同参画と防災について詳しい資料だしているので、確認していてほしいです。避難所とかで壁ドンしたらまずいですから。

■男女共同参画の視点からの防災・復興の取組指針(内閣府男女共同参画局)
http://www.gender.go.jp/policy/saigai/shishin/index.html

この後、また人格が入れ替わるシーンのあと、今度の休みに一緒に防災グッズを買いに行こうということで終わるんですが・・・・。youtubeの感想にも、全く防災のことが頭に入らなかったと書かれていました。同感です。

県のPR動画ってわざと炎上をねらったものもありますよね。そういう類だったのでしょうか。よくわかりませんけど、せっかく県政への理解を深めるということで、しかも見てもらいやすいアニメで、豪華な声優さんたちが5分も出演しているのに、防災の内容が

ハザードマップの確認(一瞬)
避難経路の確認(イラストは非常口のピクトグラム)
3日分の備蓄とローリングストックの簡単な説明
防災グッズの買い出し(最後の一瞬)

これだけだったのが、本当に残念です。

想定されている災害や、ハザードマップの利用の仕方、災害時の避難の方法についてもっと伝えられていたらと思います。

自分で考え行動することとは逆のことをされていたり、避難所で同じことやってしまうと、セクハラになりかねない内容も気になりました。

でも、最初に書いたように、これは、決して岡山県だけの問題ではないのです。「防災は想像力」だということは、セリフでも使われていますが、安全だと思い込むことで、想像に限界を設けている地域も多いのではないかと思います。本気で想像したのであれば、もっと具体的な防災政策をアピールしたくなりますよね。

この原稿を書いている最中に、東京都昭島市で公営物件について、賃借人が家具の転倒防止を実施した際に、原状回復義務が免除されることになったという報告をお聞きしました。

こちらはずっと取り組んできた内容なので、嬉しいです。

■賃貸住宅の家具転倒防止対策に希望が!港区の先進的な取り組みをご紹介します‼行政担当者も必見!実は条例も規則も変更していません!
http://www.risktaisaku.com/articles/-/2873

詳しくは追ってご報告しますが、港区、昭島市に続いてくださる自治体が増えればいいなと思っています。

家具の転倒防止対策の制度だけではなく、災害対策について、災害時のこどもの遊び場、乳幼児母子避難所、福祉避難所、実践的な防災訓練など地域によって実施されている事が異なっています。シャッターの損壊対策というような、とても具体的な研修を自治会で実施している地域もあります。

みなさんの地域が安全だと思われていても、具体策がないのであれば、災害対策が遅れている地域かもしれません。

災害が多い昨今、安全PRはマイナス要因にしかなりません。被災して大変な岡山県なのに、例にしてしまって申し訳なかったですけど、多くの地域が実践的な災害対策に想像力をふくらませるための契機としていただけるよう考えてもらえればいいなと思っております。

(了)