2024/12/20
インタビュー

2024年も残すところわずか10日。産業界に最大の衝撃を与えたのはトヨタの認証不正だろう。グループ会社のダイハツや日野自動車での不正発覚に続き、後を追うかたちとなった。明治大学商学部専任講師の會澤綾子氏によれば企業不正には3つの特徴があり、その一つである社会的不正が注目されているという。8月に『組織的な不正行為の常態化メカニズム』(千倉書房)を上梓した會澤氏に、なぜ企業不正は止まないのかを聞いた。
企業には「倫理的」「合理的」「社会的」不正がある
Q.2024年はトヨタやホンダといった企業の不正が相次いで発覚した年になりました。

過去の企業不正を調べてきた身としては、トヨタで不正が発覚しても驚きはありませんでした。以前と同様のケースと判断していいかは、まだわかりませんが、気になるのは問題が当たり前の行為として認知されていたのではないか。また各種の不正が何かをきっかけに拡大しエスカレーションしたのではないかということです。
たとえば、2016年に明らかになった三菱自動車の不正では、燃費の測定法自体が法律で定められている方法ではありませんでした。しかし、他国では採用されている方法ということで、不正であっても、ある種の正当化をしやすい不正でした。ただ、それだけに終わらず、軽自動車市場での激しい競争の中、データ改ざんにまで不正がエスカレーションしていきました。

2023年に不正が発覚したダイハツの第三者委員会による報告書では、最初の不正は1998年の衝突試験でした。安全性を満たしているのに、認証試験に合格しない可能性があったため、データを改ざんしました。そしてダイハツの不正は2014年以降に激増し、しかもエアバックの試験方法の不正のように、安全性能に関連する不正が増えていきました。
背景には三菱自動車と同様に、軽自動車市場での激しい競争があったと考えられます。トヨタでも、不正を正当化したり、エスカレーションしたりしていることはなかったのか、気になるところです。
Q.企業の不正にはどういった特徴があるのでしょうか。
企業不正は、対策の方向性から3つに分類できます。倫理的不正と合理的不正、そして社会的不正です。倫理的不正とは、個人や組織に限らず窃盗や横領のような悪意を持って意図的に行う不正行為。対策としては、倫理規程のような善悪の判断ベースなどを定めることになります。
合理的不正は、見返りが大きいという理由で不正に手を出す行為。こちらも意図的な行為で、対策としては、たとえば罰則の強化があります。社会的不正行為は、悪意や見返りといった明確な意思ではなく、不正が組織内のルーチン的な業務になってしまっていたケースになります。
いわば、特別な動機はなく、自分たちにとって「普通」で「当たり前」である行いが実は不正だった。不正行為の研究では原因を行為者の内面、つまり倫理に求める研究が多かったのですが、近年は社会的不正への関心が高まっています。
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