企業の熱中症対策義務化で求められること
第10回:職場の熱中症対策を考える

本田 茂樹
現在の三井住友海上火災保険株式会社に入社、その後、出向先であるMS&ADインターリスク総研株式会社での勤務を経て、現職。企業や組織を対象として、リスクマネジメントおよび危機管理に関するコンサルティング、執筆活動を続ける一方で、全国での講演活動も行っている。これまで、早稲田大学、東京医科歯科大学大学院などで教鞭をとるとともに、日本経済団体連合会・社会基盤強化委員会企画部会委員を務めてきた。
2025/06/13
これだけは社員に伝えておきたいリスク対策
本田 茂樹
現在の三井住友海上火災保険株式会社に入社、その後、出向先であるMS&ADインターリスク総研株式会社での勤務を経て、現職。企業や組織を対象として、リスクマネジメントおよび危機管理に関するコンサルティング、執筆活動を続ける一方で、全国での講演活動も行っている。これまで、早稲田大学、東京医科歯科大学大学院などで教鞭をとるとともに、日本経済団体連合会・社会基盤強化委員会企画部会委員を務めてきた。
近年、記録的な暑さが続く真夏を控え、特に猛暑となる7月から8月には熱中症の影響が懸念されています。そして、身体が暑さに慣れる暑熱順化には少なくとも数日かかると言われており、6月から注意が必要と考えられます。
企業の熱中症対策は、2025年6月1日施行の改正労働安全規則で強化され、死亡に至らせない(重篤化させない)ための適切な対策の実施が必要となりました。一方、社員も日常業務を行う中で、自分自身が「熱中症かもしれない」という意識を持っていることが求められます。今回は、職場の熱中症対策を考えます。
職場における熱中症による死亡災害が、近年増えており、3年続いて30人レベルで推移しています[図1]。特に、熱中症は死亡災害に至る割合が他の災害の約5~6倍となっており、また死亡者の約7割は屋外作業に従事しているため、これからの猛暑を考えるとその対策は急務と言えます。
[図1]職場における熱中症による死傷者の推移
一方で、熱中症死亡災害の分析結果(2020~2023年)によると、そのほとんど、103件中100件が発見の遅れ(重篤化した状態で発見など)や、異常時の対応の不備(医療機関に搬送しないなど)が原因でした。
そこで、社員の異変を早期に把握し重症化を防ぐことが重要という観点から、死亡事故を防ぐためのさまざまな熱中症対策が義務化されるに至りました。
企業が熱中症対策を怠った場合は、6カ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科されます。
1)熱中症対策の強化が求められる労働
熱中症対策の強化が求められるのは、気温31℃以上か、暑さ指数WBGT(注1)が28以上の労働環境で、連続1時間以上、または1日4時間を超える労働が対象となっています。なお、当該労働は、屋内・屋外かを問いません。
(注1)暑さ指数 "WBGT (Wet Bulb Globe Temperature)"
熱中症対策のため、危険度を判断する指数で、人体と外気の熱のやり取りを示す気温や湿度などを組み合わせた指標。
2)熱中症の予防対策
社員が熱中症とならないために、さまざまな観点から対策を進めます。
① 作業環境管理
屋外の高温多湿な作業場所では、直射日光や照り返しをさえぎるために、簡易な屋根を設けることが推奨されます。また、そのような場所には、近隣に冷房を備えた休憩場所や、日蔭などの涼しい休憩場所を設けるとよいでしょう。
② 健康管理
睡眠不足、体調不良、前日などの飲酒、あるいは朝食を食べていないなど、熱中症の発症に影響を与えることにも留意の上、日常の健康管理について指導することが求められます。
③ 作業管理
自覚症状の有無にかかわらず、水分および塩分を作業前後に摂取、また作業中にも定期的に摂取するよう指導することが必要です。合わせて、作業する際の服装は、熱を吸収し、透湿性および通気性の良いものを着用してもらいましょう。
④ 労働衛生教育
高温多湿の作業場所で仕事をしてもらう際には、適切な作業管理とともに、社員自身による健康管理などが重要であるため、作業を管理する人および社員に対して、あらかじめ次の項目に関して労働衛生教育を行うことが求められます。
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