10月10日は「世界メンタルヘルスデー」(イメージ:写真AC)

10月の第二月曜日は「スポーツの日」として国民の祝日となっています。元々、1964年に開催された東京オリンピックの開会式が行われた日を「体育の日」として国民の祝日と定めましたが、それが、2020年に「スポーツの日」に名称変更されました。そして、この季節は健康増進のイベント、特に運動会や体育祭が開催されること多いようです。

従業員の健康保持・増進と聞くと、多くの人は「身体的健康」を思い浮かべると思います。しかし、精神的健康を保ち、それを増進することも重要です。実は世界精神保健連盟が10月10日を「世界メンタルヘルスデー」と定めており、これにWHO(世界保健機関)も協賛し、この日を正式な国際デー(国際記念日)としています。

今回は、以前にも5月病対策(第9回:職場のメンタルヘルスを考える)として取り上げたメンタルヘルスについて再び考えます。

職場のメンタルヘルス対策

業務のなかでストレスを感じることは少なくない(イメージ:写真AC)

メンタルヘルスは身体の健康ではなく、こころの健康状態を意味しています。誰でも気持ちが落ち込んだりすることはあり、また業務のなかでストレスを感じることも少なくないでしょう。日々の生活で気分が落ち込む、そしてストレスを感じることは自然なことですが、このような状態が続くことによって、こころの健康が損なわれる原因になり兼ねません。

実際、厚生労働省の「令和6年労働安全衛生調査(実態調査)」によると、2024年11月1日~2025年10月31日の期間にメンタルヘルス不調により連続1カ月以上休業した従業員、または退職した従業員がいた企業の割合は12.8パーセントとなっており、メンタルヘルスの不調が企業に与える影響の大きさがわかります。

職場のメンタルヘルス対策は、次の3つのポイントで考えるとよいでしょう。特に、メンタルヘルス不調を未然に防ぐことが大変重要です。

(1)一次予防:メンタルヘルス不調の未然防止

①従業員のストレスマネジメントの向上
こころの不調は周りの人に気づかれにくく、また自分から伝えづらいため、回復に時間がかかりがちです。

ストレスを減らす行動を能動的に行うことが必要(イメージ:写真AC)

従業員が業務や日常生活でストレスを感じたときに、自らそのストレスに効果的に対応して、ストレスを減らすなどの行動を能動的に行うことがストレスマネジメントにあたります。教育・研修を通して従業員にメンタルヘルス対策の重要性を伝えるとともに、自分自身がメンタルヘルス不調の兆しに気づき、セルフケアを促すことが求められます。

②職場環境等の把握と改善
1)過重労働による健康障害防止

メンタルヘルス対策は、従業員の努力だけで実現できるものではありません。管理職を中心に、ストレスなく仕事ができる環境を整備することが重要です。何がメンタル不調の原因となっているかを洗い出し、その上で職場環境を改善することが求められます。

2)パワハラ対策
従業員が職場において精神的な健康を保持・増進できる環境整備としては、パワーハラスメントなどさまざまなハラスメントの防止が重要です。なぜならば、ハラスメント行為が個人の尊厳や人格を傷つける人権侵害行為であるとともに、職場の雰囲気を悪くする、また仕事の生産性を低下させるからです。

2020年6月1日に「改正労働施策総合推進法」が施行され、パワーハラスメント防止措置が企業の義務となっていましたが、中小企業においても2022年4月1日から義務化されています(2022年3月31日までは努力義務)。

企業が、職場内のパワーハラスメント行為をなくそうと考えていても、かけ声だけで実現できるものではなく、それを実現するための仕組みが必要です。

ハラスメントを起こさない体制整備は企業の義務(イメージ:写真AC)

具体的には次の4つの措置を講じることが求められていますが(「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」厚生労働省、令和4年1月)、いずれの措置においても企業がパワーハラスメントを起こさないための具体的な体制整備を進める必要があります。

・事業主の方針等の明確化およびその周知・啓発
・相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
・職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
・その他、あわせて講ずべき措置(注1)

(注1)
「相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨労働者に周知すること」や「相談したこと等を理由として、解雇その他不利益扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること」などが該当します。

③ストレスチェックによる未然防止の取り組みの強化
従業員がメンタルヘルス不調になることを未然に防止するための取り組み強化策としてストレスチェックがあります。

年1回以上のストレスチェックも企業の義務に(イメージ:写真AC)

ストレスチェック制度は、定期的に労働者のストレスの状況について検査を行い、本人にその結果を通知して自らのストレスの状況について気付きを促すものです。個人のメンタルヘルス不調のリスクを低減させるとともに、検査結果を集団的に分析し、職場環境の改善につなげることを目的としています。

常時50人以上の従業員を雇用する企業は、2015年12月から、ストレスチェックを年1回以上実施することが義務付けられています。また、従業員が50人未満の企業についても、2025年5月に義務化の対象となることが決定しています(施行期日は、当該改正法の公布後3年以内に政令で定める日)。