【バンコク時事】タイ・カンボジア国境紛争は31日、本格的な武力衝突開始から1週間が経過した。トランプ米大統領らの介入で29日に停戦が発効したものの、カンボジアは実効支配地域の一部を奪われ、戦闘継続の構えを見せていたタイもトランプ氏の「関税圧力」に屈した格好で、双方が強い不満を抱えているとみられる。既に合意違反も伝えられており、もろい停戦合意となりそうだ。
 ◇国際社会を味方に
 タイとカンボジアの衝突は24日に勃発。双方が「相手が先に攻撃した」と主張している。これまでに砲撃などにより民間人を含め合計で30人以上が死亡し、両国が停戦に合意した28日時点で計約30万人が避難生活を余儀なくされた。
 タイとカンボジアは長年、未画定の国境を巡って紛争を繰り返してきた。2011年の衝突後は一時沈静化したが、今年5月に両国軍が銃撃戦を繰り広げてカンボジア兵1人が死亡すると緊張が再燃。今回の戦闘につながった。
 カンボジア政府は5月の銃撃戦後、未画定の国境について国際司法裁判所(ICJ、オランダ・ハーグ)への提訴を表明。今回の武力衝突開始直後にカンボジアの要請で開催された国連安保理の緊急会合でも、同国代表は「国境紛争をICJを通じて解決するよう国際社会がタイに促すことを求める」と訴えた。
 ICJはこれまで世界遺産プレアビヒア寺院遺跡一帯を巡る紛争でカンボジアの領有権を認める判決を出しており、今後の交渉などを有利に進める狙いがあるとみられる。
 タイと周辺国の国境地帯の情勢に詳しいタマサート大の水上祐二客員研究員は「カンボジアは入念に準備して国際社会を味方に付ける戦略を採っている」と分析。ただ、カンボジアは11年の衝突後に実効支配していた国境地帯の約10カ所を今回奪われており、「このままでは終われないと思っているだろう」と指摘する。
 ◇世論も戦闘後押し
 タイ政府も実効支配地域の拡大を目指しているとみられる。民間人が多数犠牲となったことで国内世論は戦闘継続を後押し。ただ、トランプ氏が停戦の仲介に乗り出し、関税をちらつかせて圧力を強めると、一転して停戦に同意した。
 タイに示された米国の相互関税はカンボジアと同じ36%で、東南アジアではベトナムの20%などより高い。関税交渉が決裂すれば、経済への悪影響が大きいと判断したもようだ。
 停戦発効後も、タイはカンボジアからの攻撃があり、合意違反だと主張。カンボジアは否定するなど非難の応酬が続く。米政府と共に仲介に当たった中国でも郭嘉昆外務省副報道局長は30日の記者会見で、現在の停戦状況を「脆弱(ぜいじゃく)」と表現した。 
〔写真説明〕29日、タイ・カンボジア国境地帯で協議を行うタイ軍(左)とカンボジア軍の司令官ら(タイ軍提供)(AFP時事)
〔写真説明〕カンボジア軍の砲撃で破壊された住宅=27日、タイ東北部スリン県(AFP時事)

(ニュース提供元:時事通信社)