2025/08/07
防災・危機管理ニュース
自由闊達(かったつ)な意見交換がされにくくなり、捜査方針を再考する機会が失われた―。報告書では厳格な情報保全が求められる公安部の特性に触れつつ、捜査の中核を担う係長らが部下の進言に耳を傾けず、現場の捜査員が声を上げにくい環境だったことを問題視した。
公安部は、過激派やゲリラによるテロの未然防止のための情報収集や対策を主な責務としている。その中で、今回の冤罪(えんざい)事件の震源地となった外事1課5係は大量破壊兵器に関する不正輸出事件を担当。大川原化工機が製造する噴霧乾燥機がターゲットとなり、同課は社長らを逮捕した。
報告書によると、公安部は刑事部など他部門に比べ、指揮系統に沿った意思決定のプロセスが重視されるといい、「上司に意見を述べることは強く忌避される」といった部内の声も紹介された。
特に高度に専門的な事件を扱う5係は、他部門との連携の機会が少なかった。捜査手法や捜査の進め方についても視野が狭くなりがちで、過去の成功事例に固執した仕事のやり方から脱却しにくいリスクを抱えていた。
加えて、事件を担当した係長と直属の上司の管理官は、この分野の捜査経験が豊富なエキスパートだった。大量破壊兵器の不正輸出事件は端緒の把握が困難で、数年に1件しか摘発実績がないことから、2人は「事件検挙を第一目標」として捜査を進めた。係長も検証チームの聴取に「事件で成果を挙げ、社会に貢献するとの思いがあった」と話したという。
これに対し、部下の捜査員は聴取に「捜査方針に疑問を感じても、積極的に事件化しようとしている2人には聞き入れてもらえないと思い、意見具申しなかった」「慎重意見を述べても正面から相手にしてもらえなかった」などと述懐。5係内部でコミュニケーション不足に陥り、捜査方針にそぐわない情報は公安部長ら幹部へも報告されず、逮捕へと突き進んでいった。
検証チームによると、管理官と係長は「捜査員に寄り添い話を聞くべきだった。関係者の皆さまにおわびする」と話しているという。
〔写真説明〕「大川原化工機」を巡る冤罪(えんざい)事件で、同本社に謝罪に向かう警視庁と東京地検の幹部ら=6月20日、横浜市都筑区
(ニュース提供元:時事通信社)

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