炎上は企業にとって常にマイナスか──。直感的にはそう思いがちですが、著者はそうとは限らないと考えます。ネガティブな影響もあれば、逆にブランドの存在感を高める作用もあり、その両義性を理解することが重要です。最近、炎上した米国のカジュアル衣料大手、アメリカン・イーグルの炎上は、プラスとマイナスの両面を示す例となりました。プロモーションでSNSの活用が前提のこの時代。アメリカン・イーグルのケースから炎上との向き合い方を考えます。
「Sydney Sweeney has great jeans」
アメリカン・イーグルは、若者向けのカジュアルファッションブランドとして世界的に知られています。特にデニムは同社の看板商品であり、その強みを改めて打ち出そうと企画されたのが「Great Jeans」キャンペーンでした。
起用されたのは、いま最も勢いのある女優の一人、シドニー・スウィーニー。広告コピーは「Sydney Sweeney has great jeans」と打ち出されます。ところが、"jeans(ジーンズ)" と発音が似た "genes(遺伝子)" を重ね合わせた表現として受け取られ、消費者の間で議論を呼びました。「彼女の遺伝子が素晴らしい」と読み取った層から、「女性をモノ化しているのでは」「性的なニュアンスを感じる」などと批判が噴出したのです。
しかしその後、事態は思わぬ方向に転がりました。炎上が加速する中で、ドナルド・トランプ米大統領が自身のSNSで「アメリカン・イーグルの広告は素晴らしい」と称賛したのです。
強い影響力を持っているトランプ氏の発言により、空気が逆転し、「愛国的だ」「逆に面白い」といった声が浮上します。この発言を受けて株価は急騰。主要メディアは単日で20~24%の上昇を報じました(Investing.com)。
株価が上昇する一方で、この騒動がそのまま短期的な売上につながったわけではないとする報道もあります。英国の消費行動の分析を行う企業である「press_by」から情報提供を受けた、小売業界に関する情報発信するメディア「Retail Brew」は企業実店舗の来店者数は前年比で9%減少だったと報じています。
英国の経済誌「The Economist」と調査会社「YouGov」の共同調査(2025年8月9–11日実施)をもとにしたNew York Postの報道によれば、広告を「不快」と感じたのは12%にとどまり、「巧み」39%、「どちらでもない」40%でした。評価は政党支持で大きく分かれ、共和党支持層の過半数は「巧み」と肯定的に捉えた一方、民主党支持層では「不快」と答える割合が高く、広告が政治的立場によって真逆に解釈される構図が浮かび上がりました。
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