【イスタンブール時事】パレスチナのイスラム組織ハマスの奇襲攻撃を受けてから2年間、イスラエルは「国家存亡を懸けた戦い」を掲げ、自治区ガザ以外の中東各地でも攻勢を強めた。度重なる攻撃でイランや親イラン組織が弱体化した一方、イスラエルとアラブ諸国の関係正常化の機運は冷え込む。中東の安全保障環境は一変し、各地で緊張激化の火種がくすぶる。
 イスラエルのネタニヤフ首相は奇襲後、自国を取り巻く「七つの戦線」が存在すると訴え、ヨルダン川西岸、レバノン、イエメンなどでの攻撃も強化。アサド政権が崩壊した隣国シリアにも軍部隊を展開し、「力による平和を達成している」と戦果を訴える。
 とりわけ強調してきたのは「テロの枢軸の本丸」と位置付けるイランの脅威だ。対イランでは、従来の親イラン代理勢力との「影の戦争」から直接衝突へ発展。昨年4月以降は戦火を3度交えた。今年6月は米国も巻き込んでイラン核施設を空爆し、ネタニヤフ氏はイランでの「体制転換」も画策したとされる。
 ハマスに続き、イランを後ろ盾とするレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラは最高指導者が殺害され、イエメンの親イラン武装組織フーシ派も幹部らが死亡した。それでも、ヒズボラは武装解除を拒み、フーシ派はイスラエルへミサイル発射を続ける。イランは、低下した抑止力回復のため核開発継続で抵抗する方針を崩さない。
 イスラエルは2020年、第1次トランプ米政権の仲介で、アラブ首長国連邦(UAE)などアラブ各国と関係を正常化する「アブラハム合意」を実現。奇襲直前には「アラブの盟主」を自任するサウジアラビアとの和解も近いとみられていた。湾岸アラブ各国にとっては当時、イスラエルよりイランの脅威への対処が優先事項だった。
 しかし、ガザの人道危機が深刻化し、西岸併合も示唆するイスラエルの振る舞いに対してアラブ諸国は態度を硬化させている。9月には、イスラエルがハマス幹部攻撃を理由にカタールを空爆。ガザ停戦交渉の仲介国さえ攻撃した衝撃は大きく、アラブ・イスラム圏諸国は対抗策も辞さない姿勢を示した。
 中東の専門家は米紙ニューヨーク・タイムズで、イスラエルの強硬姿勢が地域紛争のリスクを増大させており、「(イランよりも)地域の安全保障にとって一層大きな脅威となった」と指摘した。 
〔写真説明〕イスラエルの攻撃を受けて損壊した建物=6月13日、イラン・テヘラン(EPA時事)

(ニュース提供元:時事通信社)