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環境格付は、国際連合(United Nations)の「環境と開発に関する世界委員会(WCED :World Commission on Environment and Development)」の1987年における報告書「我ら共有の未来(Our Common Future)」で認識され、1992年ブラジルのリオデジャネイロにおけるWCEDの地球サミット(通称:リオ会議)以降、世界的に定着しました。環境経営を行う企業への投資活動が、環境格付融資です。環境格付融資は、優遇金利という動機づけを持たせることで、企業の環境保全に対する取り組みを後押しつつ、資金需要の掘り起こしを目的とする金融商品の一種です。第23回では、環境格付の概念と動向について解説いたします。

(1) 環境格付の概念

近年、環境経営を評価する手法として、「環境格付」が浸透しています。環境格付は「CSR (Corporate Social Resposibility )格付」または「サスティナビリティ格付」とも呼ばれています。環境格付は、「企業の環境経営における3つのボトムライン―自然・社会・経済―を押さえて、企業の環境サスティナビリティ維持と環境保全の実現に対する度合い(環境サスティナビリティ貢献性)を基軸として企業の全活動を評価・分類する」と定義されています。わが国の主な環境格付と一般的な信用格付を比較しますと、図表1のとおりです。

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(注1)「トーマツ審査評価機構」は、2017年1月1日で一部の業務を日本検査キューエイに移管し、2月1日から、「デロイト トーマツ サスティナビリティ」へと変更しています。
(注2) 2002年に「産業廃棄物処理業者の格付け手法検討調査」において、報告されましたが、制度的に格付が確立されていません。
(注3) 2005年に施行された「産業廃棄物処理業者の優良性の判断に係る評価制度」にしたがい、岩手県産業廃棄物協会「産業廃棄物処理業者育成センター」が独自に定めたものです。
(注4) この格付符号は、格付機関共通のものではありません。例えば、格付投資情報センターの場合は、AAA(最も高く---)、AA(極めて高く---)、A(高く---)、BBB(十分であるが---)、BB(当面問題ないが---)、B(問題があり ---)、CCC(重大な問題があり---)、CC(不履行に陥る懸念が強い---)、C(債務不履行に陥っており---)、と表示します。また、ムーディーズの場合は、Aaa(最高位)、Aa(総合優)、A(投資適格)、Baa(投資中)、Ba(安全不確実)、B(適切可)、Caa (安全性低)、Ca(重大な危険性)、C(最低位)の表示です。

図表1において、「項目」欄の①から③を比較しますと、次のことが明らかです。

① 「主たる格付者(格付機関)」では、信用格付と環境格付の格付機関がまったく異なっています。

② 「格付対象・目的」では、信用格付が金融商品を対象にしているのに対し、環境格付は、環境報告書などを対象とすることから格付対象は異なるが、両者ともに格付の目的は、企業評価です。

③ 「発行体格付・符号表示例」では、環境格付においては、信用格付と類似した発行格付符号表示のほかに、☆(星)印やランキング形式など多様です。

上記以外で、環境格付と信用格付には、次のような特徴があります。

㋑ 信用格付は、債券や株式などの財務的側面を対象として、1900年創業のムーディーズ・インベスターズ・サービス(Moody’s Investor Service)の創業者であるムーディー(J. Moody)が、1909年にアメリカにおいて、250社の鉄道会社の鉄道債券を格付したことに端を発しています。日本では、1979年に日本公社債研究所が設立され、1980年代にかけて制度の整備・拡充が行われました。

㋺ 信用格付と環境格付は、格付者(格付機関)と発祥時期・発祥地の起源も大きく異なりますが、両者の目的は、企業の債券または企業自体を、第三者の視点で客観的に評価する点は同じです。

㋩ 企業の視点から、環境格付を採用するメリットは、環境対応が進み、環境格付で高く評価されれば、企業は、取引の円滑化や売上増など直接的に収益向上につながる効果だけでなく、株価が上昇し、資金調達が容易になる効果も得られる可能性があります。

㋥ 信用格付は、ステークホルダーの投資活動に対して、有用な情報を提供するのに対して、環境格付は、投資家が、環境経営を行う企業への投資活動に対し必要不可欠な評価ツールとなります。環境経営を行う企業への投資活動が、社会的責任投資(SRI :Socially Responsible Investment )と環境格付融資です。