デジタルリスクの地平線 ― 国際的・業際的企業コミュニティの最前線
突如、CSIRT(シーサート)メンバーはもちろん、サイバーセキュリティチームも危機対応役員も、サイバー救急隊として苛烈なサイバー攻撃の現場に放り込まれます。そのなかにあって沈着に行動し、社内外関係者に頼りにされる、輝く「カワタレ星(金星)」となるには、普段から沈着を養っておかなければなりません。
そのための工夫にはどのようなものがあり得るのでしょうか?今回は、サイバー救急隊の内面を整えるための方策に迫ります。
汚染が進むオンライン空間のストレス
まず、サイバー救急隊の熟知すべきオンライン空間ですが、汚染が進んでいます。見通しが効かなくなっているのです。サイバー犯罪の深刻化のみならず、偽・誤情報が氾濫し、さらに生成AIによってディープフェイクは大衆化してしまい、情報のインテグリティ(情報の正確性、一貫性、および信頼性)も偽・誤情報およびヘイトスピーチによって汚濁が進んでいます。
汚染が進むオンライン空間は、ひと昔前の快適なインターネットではありません。本邦の良き市民も、ストレスや不安を感じる人が約半数いるとの調査(※)があります。人によっては、スマホの中で生活しているような生活習慣のなか、ストレスは知らず知らずのうちに精神を蝕んでいます。
※電通総研コンパスvol.15「情報インテグリティ調査簡易レポート」(電通総研、2025年4月)
急救隊にも圧しかかるストレス
物理的な火急事態に対応する救急隊員は、ストレスを抱えています。特に隊長の心理的負荷は大きいとの調査(※)もあるほどです。想像に難くない職業病といってよいでしょう。
※救急隊員の抱える身体的・心理的の負担に関する全国アンケート調査について検討会報告書(一般社団法人日本臨床救急医学会救急活動時の救急隊の活動向上に向けた検討委員会、2023年3月)
サイバー空間の火急事態に対応するサイバー救急隊の場合は、さらにプライベート環境でも気が休まらない構造です。仕事とプライベートが、いつ、どこから何が出てくるかわからない、汚染の進んだ薄明の「かわたれ時」のようなオンライン空間でつながっているからです。ストレスが圧しかかるばかりです。
サイバー救急隊が「カワタレ星」になるとき
町火消しは、所轄の家に火事が出たとなると、我らいざ参じたり!と、火事装束をまとい、鳶口(とびぐち)を手に現れます。ああ助けが来たと人々が安堵する瞬間です。まさにスーパーマンの登場でしょう。
情報や時間軸の錯綜、救難の叫びと盲動だらけのサイバー空間に飛び降りて来るのは、サイバー救急隊です。町火消しの心意気で、まずは人々を安心させなければなりません。ひとつの判断の誤りが致命的な結果を招くなか、彼ら一人一人に求められるのは、沈着な「鳶口」の手慣れた振り回しです。そう、沈着さが、サイバー救急隊を「カワタレ星」のように輝かせてくれるのです。
日ごろの設えが重要
沈着は、いざという時に火事場で得られるはずもありません。設え(しつらえ)、すなわち用意や準備が欠かせません。日々の室礼(しつらい)でプライベート空間をていねいに整えておくことが必要です。
サイバー救急隊といっても生身の人間です。プライベートな時間といってもオンライン空間で過ごす時間も長いなか、人格攻撃にあったり、自身の自画像が歪曲されたりしては、心の平和を保ちようがありません。沈着を平時から涵養(かんよう)するためには、プライベート空間は心理的安定を図れる設えにしておかなければならない道理です。
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