2013/03/25
誌面情報 vol36
ケース・スタディから学ぶ海外進出の安全管理の基礎
安全サポート株式会社 代表取締役有坂錬成氏
海外の現場で緊急事態が発生した時、企業にはどんな対処が求められるのか。企業の進出前の事前研修から進出後の緊急事態発生時の支援まで、海外進出リスクの総合支援を引き受ける安全サポート株式会社代表取締役の有坂錬成(ありさか・れんせい)氏に、交通事故と暴動の事例をもとにアドバイスを頂いた。
◆CASE1 現地で交通事故が発生
Situation
アジアの途上国の首都から鉄道で2時間の地方都市に一人で出張中のAさんが交通事故に遭い、重傷を負って市内の病院に救急搬送された。Aさんの名刺を見た現地病院から会社に連絡が入った。
◇Take Action!
1.24時間、海外からの緊急連絡を受ける体制は整っているか?
2.このような場合に緊急対応を行う部署や担当者が社内で決まっているか?
3.拠点の無い国の場合、現地へは誰が駆けつけるのか?
♥Advice ここがポイント!!
このような事態で緊急連絡を受けられなかった場合、病院の治療が滞ってしまうこともあります。海外旅行保険に加入し、連絡さえ付けば多くの場合病院の手配や医療費の支払いを代行してくれます。
慣れない国で、しかも医療水準もまちまちで、医者とのコミュニケーションもとりにくい状況の中で、一刻も早く現地に誰かが駆けつける必要があります。また、Aさんの家族のことも最優先に考えなければなりません。 これらのことは、みな自社で解決して行かなければならない課題となります。この事例は、まだ緊急事態が始まったばかりの状況ですが、Aさんが回復して日本に帰国するまでに飛び出す様々な課題は一刻の猶予もなく、即決していかなければなりません。
このようなことに対応できる態勢を構築することが「企業の危機管理」であり、具体的に取り組むべき課題は以下のような項目があります。
・駐在員、出張者のトラブル予防や初動対応の教育
・危機管理担当者および関係者の教育と訓練
・自社の体制を熟知し、平時の指導から緊急対応まで責任を持って対応してくれるコンサルタントの活用
・その他適切な補償や対応が得られる海外旅行保険もしくは医療搬送サービスの調達
3つ目のコンサルタントの活用については、注意が必要です。平時の指導やマニュアル作成だけを行うコンサルタントと緊急対応を行う会社を切り離すと責任が曖昧になる可能性があります。また、海外旅行保険を任せる保険代理店も、加入手続き等の事務処理だけを行うのか、緊急事態の対応を行う能力があるのか見極める必要があるでしょう。
◆CASE2 アジアで暴動が発生!!
Situation1
生産拠点を置くアジアのA国の首都Y市では、首相の退陣を求める反体制派のデモが日に日に激化し、デモ隊の一部が暴徒化して市民が大統領官邸に投石や火炎瓶を投げつけている。鎮圧のため出動した軍が発砲し、デモ隊に死傷者が出ている。この後、事態はさらに悪化し、一般市民にも多数の死傷者が出ている。外務省はかねてからY市について危険情報「十分注意してください」を発出していたが、これを一段階引き上げ、「渡航の是非を検討してください」を発出した。
◇Take Action!
1.この時点で本社はどのような対応をとるのか?
2.駐在者、出張者にどのような指示を出すか?
Situation2
その後…事態がさらに悪化し、邦人にもケガ人がでて、外務省は危険情報をさらに一段階引き上げて「渡航の延期をお勧めします」を発出した。
◇Take Action!
3.駐在者、出張者の安全確保のためどのような対策を講じたらよいか?
4.このまま事態がエスカレートした場合、駐在者はどの時点で退避させるべきなのか?
5.「退避勧告」が発出された場合、定期便運航している間に退避するためにはこの時点でどのような準備が必要になるのか?
♥Advice ここがポイント!!
この後、さらに事態が悪化して外務省の退避勧告が出されるか、事態が沈静化していくかを予測をするのは困難です。
国外退避の対策として脱出時のチャーター機手配のサービスを調達している企業は少なくありません。しかしそれで安心して良いのでしょうか? 何も対策が無いよりはましかもしれませんが、これは定期便での脱出ができなかった場合の一代替手段に過ぎず、航空機の飛行自体が不可能になる場合も考えられます。その場合に備えて、陸路や海路での退避、また安全な場所に篭城する計画も必要です。
そもそもそんなに危ない状態になってから退避をするのでは退避計画が機能していない結果ともいえます。 本来は、定期便が飛んでいる安全な状態の中で退避しておくべきです。そのためには平時からどのタイミングで退避するのか、トリガーに行動を開始するのかなど十分に検討した退避計画を作成しておく必要があります。何をまた、正しく判断するための情報分析など、チャーター機に頼る前に打つべき対策が沢山あります。
これらの計画を自社で作れないのであれば、専門家に相談するのも1つの方法です。ただし、これもマニュアルや計画を作るコンサルタントと緊急時の対応を手伝うコンサルタントが同一でないと誰も責任を取ってくれないことになるので注意が必要です。
危機が発生してから想定外の事態として初めて考え始めるのは無謀です。想像できる限りの事態を洗い出し、それぞれの対策を講じて問題を潰して行く。その上で想定外のことが起こったとしても、ある程度の対応はできるはずです。
これが、海外進出企業が行うべき海外危機管理の基本です。
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