米有力紙ワシントン・ポストが経営危機に揺れている。同紙は4日、記者職約800人のうち300人以上を解雇し、運動部の廃止や地域報道縮小といった荒療治に踏み切り、社内で反発を招いたウィリアム・ルイス最高経営責任者(CEO)が7日に辞任を表明した。ピュリツァー賞を80回近く受賞した名門の没落は、「オールドメディア」と呼ばれる既存メディアの窮状を浮き彫りにした。
 ◇ベゾス氏に批判
 5日、氷点下近くに冷え込んだ首都ワシントン。1月下旬に降った雪が残る同紙本社前の路上で解雇された記者らが集会を開き、首都圏報道部に所属していたマリッサ・ラングさんは「ジャーナリストなしでは民主主義は死んでしまう」と訴えた。別の労働組合幹部も「世界第4位の富豪ジェフ・ベゾスがワシントン・ポストを所有している。彼は経営できるのにやろうとしない」と批判した。
 2013年に同紙を買収したアマゾン・ドット・コムの創業者ベゾス氏は24年の大統領選に際し、民主党候補だったハリス副大統領(当時)への支持を表明する論説の掲載見送りを決め、共和党候補だったトランプ大統領への政治的配慮だという批判を浴びた。この騒動で、25万件超の電子版解約を招いたとされる。
 ただ、当時の読者離れは苦境の一端を示しているにすぎない。2000年代初頭に70万を超えていた同紙の平日平均発行部数は、インターネットメディアとの競争に押され25年時点で10万部を割り込んだ。電子版契約は21年の約300万件をピークに減少。同紙は希望退職制度を用い従業員を1割削減したものの、23年は約7700万ドル(約118億円)の損失を計上した。
 ◇ライバルと明暗
 ライバル紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)の経営は堅調だ。発行部数は00年の110万部超から24年末には60万超に減った一方、電子版と合わせた総契約件数は同年末時点で約1140万件に達した。報道記事に加え料理レシピやゲーム、商品レビューサイトの使用・購読権を一括販売するデジタル戦略の成功が、契約増の理由だ。
 ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙も早期から金融関係者ら「プロ向け」を意識した記事をネット上で有料で提供して読者を囲い込み、450万規模の総契約件数を維持する。政治報道を売りにするワシントン・ポストはNYTほど間口の広い潜在読者層を持たず、WSJのように金融情報インフラとして扱われることもない。
 ハーバード大ケネディ行政大学院のトーマス・パターソン教授(メディア論)は、NYTとWSJは「(既存メディアの)典型例ではない」と指摘。ワシントン・ポストに関し、人工知能(AI)の活用などで記事作成コストを下げ、「重要な出来事の迅速な報道と権力者の説明責任追及」という強みを生かして読者をつなぎ留めていく戦略が有効だとの見方を示した。 
〔写真説明〕米紙ワシントン・ポストの本社前で開かれたリストラへの抗議集会で、参加者に語り掛けるマリッサ・ラングさん(左)=5日、ワシントン
〔写真説明〕米紙ワシントン・ポストの本社前で開かれたリストラへの抗議集会で、参加者と抱き合うマリッサ・ラングさん(中央右の赤い帽子の女性)=5日、ワシントン

(ニュース提供元:時事通信社)