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電気・水道・ガスなどの「ライフライン」は、どれが止まっても困る大切なものだ。鉄道や道路などの交通・輸送網や、電話・インターネットなどの通信網も、「ライフライン」の1つとされる。筆者のようにマンション暮らしをする者にとっては、エレベーターなども「ライフライン」に含めたいところだ。

これらの「ライフライン」と呼ばれるもののうち、どれが最も重要であろうか。その優先順位は人により、また状況により異なるかもしれないが、水道(ここでは上水道に限定する)はどの人にとっても上位にくるのではないか。水道の機能が失われる断水の影響はきわめて深刻だ。本年7月28日に発生した熊本地震の被災地でも、広範囲に断水が発生し、猛暑と相まって、本稿を執筆中の8月13日現在もなお、被災者たちを苦しめている。

本稿では、気象に起因する断水、なかんずく、大雨による断水をとりあげる。大雨による災害と言えば、浸水害、洪水害、土砂災害などが思い浮かぶであろう。それに加えて、大雨は時に、断水をも引き起こす。大雨災害は水が多すぎることによる災害だが、皮肉なことに大雨は、断水を引き起こし、水を使えなくしてしまうことがあるのだ。水はたくさんあるのに、飲料水や生活用水が得られないのは惨めで悲しい。まずは、筆者の見た事例を紹介する。

深夜の大雨警報

図1に、2010(平成22)年8月11日から13日まで、各日21時の気象衛星赤外画像を、図2に同期間・同時刻の地上天気図を示す。11日21時には、山陰沖の日本海に台風第4号があり、東北東へ進行中である。台風の北側には前線の雲域が帯状にのびており、北海道にかかっている。台風は加速しながら、12日17時頃秋田市付近に上陸した後、東北地方を横断して、12日21時には三陸沖に達した。この時刻には、台風の雲域が前線の雲域の一部となり、台風中心の西側で前線の雲域が途切れている。その後、台風は13日3時に釧路沖で温帯低気圧に変わり、13日9時以降は、先を行く発達中の低気圧に吸収され消滅した。13日21時の気象衛星画像では、カムチャツカ半島付近に、台風第4号から変わった低気圧を吸収した低気圧の雲渦が見られる。この時刻には、本州上を東西にのびる雲帯が復活し、前線の雲域に対応する。

画像を拡大 図1. 2010年8月11日~13日の気象衛星赤外画像(各日21時)

図2の13日21時の地上天気図では、本州上に前線が描かれている。しかし、筆者が見た断水事例は、この前線付近の出来事ではない。2010年当時、筆者は旭川地方気象台長の職にあった。旭川地方気象台の担当予報区は、北海道北部の上川・留萌地方である。8月13日、道北地方には降雨が予想されていたが、18時から翌朝6時までの12時間予想降水量は50ミリメートル程度とみられていた。ところが、現象の推移は、この予想をはるかに超えるものであった。20時07分、旭川地方気象台は、留萌北部・中部と上川北部に大雨注意報を発表し、21時41分には留萌北部の天塩(てしお)町と遠別(えんべつ)町、上川北部の中川町と音威子府(おといねっぷ)村に土砂災害に関する大雨警報を発表し、22時47分には浸水害に関する大雨警報を追加発表する事態となった。さらに、これらの町村に対し、土砂災害警戒情報も発表した。現在の「レベル4危険警報」に相当する危険度であった。

画像を拡大 図2. 2010年8月11日~13日の地上天気図(各日21時、気象庁の図に加筆)。「TS」(Tropical Storm)は、域内の最大風速が17m/s以上、25m/s未満の台風を表示する記号

道北地方に緊急事態をもたらした雨雲は、図1の13日21時の気象衛星赤外画像において、道北地方に見られる輝度のやや高い雲域であるが、広範囲に広がっているわけではない。この程度の雲域でも、局地的に激しい雨を降らせるから油断がならない。13日21時の画像は、集中豪雨の予兆を示していた。同時刻の地上天気図で見ると、道北地方は気圧傾度が緩く、捉えどころのない気圧配置になっている。しかし、上空にはジェット気流が見られ、寒気の縁辺にあたっているのに、下部対流圏には暖湿気塊が流入していて、不明瞭ながら前線帯を形成しており、積乱雲が発達しやすい環境になっていた。難しいのは、積乱雲の発達の程度と位置及びタイミングの予想で、誤差が生じやすい。そうした中で、13日の夜を迎えざるを得なかった。