2026/08/24
令和8年熊本地震
熊本市の工務店・新産住拓株式会社(小山英文社長)は、2016年の熊本地震や近年相次ぐ豪雨災害を通じて災害対応を磨き上げてきた。発生当日は、約3割の社員が定休日で社長も不在という条件下にもかかわらず、地震発生から50分で社員の安否確認をおおむね完了し、2時間後にはホームページや顧客専用サイト(オーナーズサイト)で被害受付を開始した。翌日には、被災した一部の社員を除くほとんどの社員が出社し、顧客対応に当たった。10年前は2カ月かかっていたという修理の見積もりも、現場でその場で提示できるまでに改善した。同社の小山社長(60)と、今回の災害対応の中心となった植松豊専務(51)、さらに震災後に入社した若手社員に話を聞いた。取材を通じて見えてきたのは、2016年の反省を一つひとつ検証し、「暗黙知」を「シンプルな形式知」に置き換え続けた10年の蓄積だった。
KPTで改善活動を貫く
新産住拓は、熊本県産材にこだわった注文住宅を手がける地場工務店だ。「会社はお客様のためにある」という理念のもと、顧客のために常に道を開拓していく姿勢が社名の「住拓」に込められている。2016年当時は社員・パート約120人だったが、現在はグループを含め約150人体制となった。ただ、この10年で定年を迎えた社員も多く、約3分の1は2016年の熊本地震を社員として経験していない。
そうした中でも同社は、10年前の熊本地震の検証・改善を続けるとともに、毎年のように襲来する台風、多発する豪雨などへの対応を通じて、災害対応の基本動作を磨いてきた。一連の取り組みについて、植松専務は、2016年以降まとめてきたという1枚のエクセルシートを見せてくれた。そこに記されていたのは「KPT」の一覧表だ。
KPTは、振り返りのフレームワークの一つとして知られる。仕事やプロジェクトを対象に「Keep(成果が出ていて継続すること)」「Problem(解決すべき課題)」を洗い出して分析した上で、具体的な改善策である「Try(次に取り組むこと)」を検討する手法だ。簡単に言えば、「良かったこと」(Keep)と「悪かったこと・直したいこと」(Problem)を整理し、「どう解決・改善するか」(Try)をまとめる。
例えば、社員の安否確認。2016年の熊本地震ではおおむね2時間で確認できたものの、電話がつながらなかったり、情報が分散したりする課題(Problem)が生じた。そこで2016年以降、緊急連絡網を「本部⇔部門長⇔各部門連絡ツール」の形で運用・訓練するというTryを積み重ねてきた。その結果、今回の地震では社員の安否確認に要する時間は大幅に短縮でき、情報の分散も防ぐことができた。
最も大きな改善は、修繕見積もりまでの時間短縮だという。2016年は見積もり開始まで2カ月ほどを要したが、前回の反省から「外壁のコーキング補修なら1カ所いくら」と、誰でも現場で金額を拾える計算書を作成した。営業・設計・事務系の社員が2人1組で顧客宅を回り、お見舞いの水を渡して被害状況を確認し、希望があればその場で簡易見積もりを作成、簡易な補修まで行う。「今回は7日目からこの動きができた」と植松専務は手応えを語る。その場で顧客の了解が得られればサインをもらって注文書とする運用で、再訪問の手間も省いた。
このほか、屋根上の作業に備えて高所作業車(バケット車)の資格取得者を増やす、被災した瓦を屋根から下ろす「瓦シューター」を会社としてあらかじめ保有しておくなど、改善した取り組みは数え切れないほどある。
事例から学ぶの他の記事
おすすめ記事
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2026/09/15
-
-
-
防災は面白くないと広がらない
地震が起きたとき、スマートフォンに通知された情報を頼りに避難を判断することが多いだろう。緊急地震速報の情報から、いまどのように動くべきかを判断できる、そんな身近な危機管理を習慣づけた1 社が、アールシーソリューション(東京都新宿区)だ。2010 年に提供開始したスマートフォンアプリ「ゆれくるコール」は、緊急地震速報を受信できるアプリとして多くのユーザーが利用している。代表取締役の栗山章さんは、数多くのユーザーに防災の重要性を広めてきた一方で、ビジネスとして成り立たせる難しさにも直面してきたという。これまでのサービス開発の経緯や、防災ビジネスへの価値観を聞いた。
2026/09/09
-
被災施設への再入場判断「戻ってはいけない」では解決しない避難後の問題
大地震が発生し、安全な場所へ避難して一息つくと、人々には「ひとまず危険のピークは過ぎた」という根拠なき安心感が芽生える。そして、さまざまな理由で「避難してきた場所に戻りたい」といった気持ちが生じる。しかし、被害がどの程度なら戻ってよいのかについての明確なルールや事例は、どこを探してもあまり見当たらない。 国には応急危険度判定という仕組みや、施設管理者が建物を緊急点検するための指針などもある。が、これらは避難直後の「戻りたいニーズ」に応える仕組みではない。ここに、避難直後の「再入場」という古くて新しい問題がある
2026/09/09
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2026/09/07
-
-
-
暗黙知を形式知へ、10年の徹底改善が生きた
熊本市の工務店・新産住拓株式会社(小山英文社長)は、2016年の熊本地震や近年相次ぐ豪雨災害を通じて災害対応を磨き上げてきた。発生当日は、約3割の社員が定休日で社長も不在という条件下にもかかわらず、地震発生から50分で社員の安否確認をおおむね完了し、2時間後にはホームページや顧客専用サイトで被害受付を開始した。
2026/08/24
-





※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方