2018/12/06
AIブームとリスクのあれこれ
■犯罪の発生可能性を推測するAI
防犯カメラには賛否両論があることをご存知でしょう。犯罪の防止に大変役立つという意見の人。いや犯罪防止には役立っていない、事件が起きたあとに警察の追跡や証拠の確認のために役立っているだけだという意見の人。これはコンピューターを用いた犯罪抑止技術についても言えることです。社会の最終目的は、単に犯人をすばやく捕まえるだけでなく、事件や事故そのものを顕在化させないことなのです。ではAIには、冒頭に述べたような犯罪を未然に防ぐ能力など本当にあるのでしょうか。あるいはこれもまた、単なる"神話"で終わってしまうのでしょうか。
否、この技術はすでに実用化されています。例えば米国ではPredpol社がプレドポルと呼ばれる予測型犯罪防御システムを開発し、行政などに提供しています。機械学習とビッグデータを組み合わせ、過去の犯罪に関するデータを分析することにより、今後いつどこで犯罪が起こる可能性があるのかを予測させるシステムです。あるタイプの犯罪は似たような時間と場所で起こる傾向があるため、過去のデータからこうした特徴を導き出せるようになるといいます。
一例を挙げると「ある地域で強盗が頻発すると、近い将来、その周辺地域でも強盗が頻発する可能性がある」のです。Predpol社はこの考え方をETASモデルと呼んでいるそうで、どうもこのモデル、もともとは地震活動の変化から、統計学的に異常な振る舞いを検出して地震の短期予測や余震の発生確率の算定などに用いるために考案されたものらしいのです。地震学が犯罪予測に役立つなんて意外でした。
米国における成功例としては、2013年1月にこのシステムをワシントン州のタコマ市に導入したところ、2年間で住宅地の強盗事件が22%減少したと伝えています。実は日本でも、2016年に京都府警が「予測型犯罪防御システム」を導入し、一定の成果を上げたとのニュースが各紙に出ていましたので、もはやあまり珍しいAIではなくなっているのかもしれません。
(了)
- keyword
- AI
- 犯罪
- マイノリティ・リポート
- トム・クルーズ
AIブームとリスクのあれこれの他の記事
- 第12回(最終回):不老長寿はAIで実現!?
- 第11回:AIと山火事の発生予測
- 第10回:地震への迅速な対応を指南してくれるのは…
- 第9回:AIで地震は予知できるか?
- 第8回:AIを使って犯罪をどこまで未然に防げるか?
おすすめ記事
-
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/10/14
-
走行データの活用で社用車をより安全に効率よく
スマートドライブは、自動車のセンサーやカメラのデータを収集・分析するオープンなプラットフォームを提供。移動の効率と安全の向上に資するサービスとして導入実績を伸ばしています。目指すのは移動の「負」がなくなる社会。代表取締役の北川烈氏に、事業概要と今後の展開を聞きました。
2025/10/14
-
-
-
-
トヨタ流「災害対応の要諦」いつ、どこに、どのくらいの量を届ける―原単位の考え方が災害時に求められる
被災地での初動支援や現場での調整、そして事業継続――。トヨタ自動車シニアフェローの朝倉正司氏は、1995年の阪神・淡路大震災から、2007年の新潟県中越沖地震、2011年のタイ洪水、2016年熊本地震、2024年能登半島地震など、国内外の数々の災害現場において、その復旧活動を牽引してきた。常に心掛けてきたのはどのようなことか、課題になったことは何か、来る大規模な災害にどう備えればいいのか、朝倉氏に聞いた。
2025/10/13
-
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/10/05
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方