2016/09/13
奥はる奈のロンドン大学危機管理講座
キューバの防災を文化にする防災教育
災害時に市民全員が避難場所をしっかり把握し、何をすべきか理解しているということのカギは、小学校からの防災教育です。小学校では、防災ビデオを見せ、ロールプレイングなどでハリケーンを学び、・中学高校ではハリケーンの仕組みを細かく学びます。
ベダド地区の小学校の先生は、次のように説明してくれました。
「教科書やブックレットを使い、2年生は物語を使って間接的に教え、年生か1、3らは具体的に市民防衛や地区の危ないエリア、どこにどうやって逃げるのか、子どもたち一人ひとりの役目を教えます。ですから子どもたちは全員ハリケーンの危険性について熟知し、自分たちの役割を理解しているのです」さらに、「学校が被災するなどして使えなくなっても、近所の人の家を借りるなどして翌日には学校の授業が始まります」と、教育再開から早期の復旧を支えている姿が見られました。
ハリケーン来襲時のオペレーション
キューバはアメリカに匹敵するようなハリケーンの予測システムを持っています。そして、ハリケーンが近づくと、政府からは96時間以内に「初期警報」が発令され、その後、72時間以内に“Information(周知段階)”、48時間以内に“Alert(警報段階)”、24時間以内に“Alarm(警告段階)”と三段階に分けて、それぞれの対応が行われます。
1.周知段階(72時間以内)
この段階では、気象研究所が危険区域を公表するため、住民は絶えずテレビやラジオをつけ、最新の情報を得ます。ここでも、キューバならではの、情報の発信側(専門家)と受取側(市民)のリスクコミュニケーションの工夫がされています。テレビにはお天気キャスターではなく気象研究所の博士が登場し、市民に緊迫感を与えつつ、正確な情報提供を行います。博士は難しい専門用語は避け、誰もが理解しやすい言葉で影響のある地域やリスクを伝えます。
一方、市民防衛は、対応組織やコマンドセンターの立ち上げ、避難のための交通手段や必要設備を手配します。コミュニティーレベルでも、危機対応計画の内容確認、避難手順、場所、備蓄の確認をします。
2.警報段階(48時間以内)
この段階になると、住民は食糧や水の備蓄確保、窓にテープを貼る、風で飛ぶ恐れのものは片づけるなど、ハリケーンに備え始めます。学校は生徒たちを帰宅させます。また、ボランティアも使いながら出来る限りの農作物を収穫し、家畜を高台へと移動させます。
一方、地方政府の市民防衛は、ハザードマップによりどの施設や住宅が脆弱なのか、どれだけの資源や物資があるのかをあらかじめ把握しているため、脆弱だと判断されたエリアや避難所に不足分の飲料水や食料、薬などの物資を運び込み、病院、パン屋、食料加工センター、学校には72時間稼働する発電機が準備されます。
さらに、避難所には管理者、医師、看護師、獣医、警察が配備されます。キューバでは被災者の健康を重要視する観点から食品衛生管理や病気の予防に気を配り、災害時も平時同様の、あるいはそれ以上の医療を提供できるよう、医師や看護師、医療品などの資源の適切な配置と対応が取られます。医師になるためには、実践的な防災医療を身につけることが必須とされています。
3.警告段階(24時間以内)

ハリケーンが接近し、いよいよ危険となれば避難命令が出されます。
市民はハリケーンのリスクを理解しているので、自主的に避難します。
被害の想定に応じ、家屋内の強固な場所に移る/上層階のあるご近所宅に避難する、など臨機応変に対応します。
大きなハリケーンとなれば、大規模な避難です。ハリケーン・ミシェルの時には約70万人、イワンでは約200万人、グスタフ、アイクでは戦車・トラック・バス1万台の車両を使用し約300万人が避難、3000人の旅行者が安全な場所へと移されました。
避難の際は、子ども、女性、高齢者、障害者を最優先にしています。女性の避難者に対しては、キューバには、女性への暴力撲滅と男女平等を推進している「女性連盟」が置かれていて、「女性連盟」災害時にもきめ細かくこのが、フォローしています。
インタビューでは、「妊娠中の女性の避難方法も明確で、場合によっては女性連盟のメンバーが迎えに来てくれます。避難所での食料・医療設備は整えられており、被災後も各家庭を健康診断で巡回します。私たち家族は女性のみですが、政府からの情報もしっかり伝えられ、安全だと感じています」という力強い言葉を聞くことができました。
早期復旧を支えるキューバの取り組み
ハリケーンが去り復旧段階に入ると、市民防衛のみならず、キューバ全土からボランティアが多く集まり、総がかりで清掃作業、家屋の復旧を行います。また、政府は、家屋を再建するための材料を無償で提供します。
ただでさえ資源が不足している国ですから、被害によってはその提供に年単位で時間がかかるケースもあります。しかし、政府が最低限の保障をしてくれるということ、時間がかかるという事実をしっかりと住民に伝えることで、住民は安心して待っていられるのです。

キューバから学ぶしなやかさとは
キューバは、社会主義国特有の中央集権的な体制がある一方で、行政や各自治体、関係機関が細かなレベルで横にも連携していること、さらに避難者を自宅に迎えるなど、コミュニティで助け合うという意識が根付いていることがお分かり頂けたかと思います。
インタビューに対応して下さった全ての方々が、自らが取り組んできたことについて話すとき、誇らしげな顔をされていたことが印象的でした。我が身を守り、そして家族を守りたい、という想いが地域の安全を支え、さらには国全体の防災を支えている、そんなキューバという国が見えました。
インフラや建物が脆弱である、だからこそ、危機が起こる前と起こった後の、体制、対応、国民ひとりにいたるまでの避難方法の伝達、教育が発展したキューバ。自然災害にどう立ち向かうか、ではなく、自然の摂理に逆らわず、どうそれと共生していくか、を考えるしなやかな姿から、私たちが学ぶべきところは多いのではないでしょうか。
(了)
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