事例から得られる教訓

さて、これらの事態はいずれも、町の地域防災計画では想定していなかった事柄でした。この事例から、どのような教訓を得ることができるでしょうか?

庁舎やサーバのハードウエアといった経済資本は、喪失した際の代替が、他のキャピタルに比べて容易である、と言えると思います。一方で、組織資本(本事例の場合はデータ)は、ひとたび失われると回復が難しいという特性が見てとれます。今回は多くをご説明することができませんでしたが、人間資本も一度失われると回復することができないため、命を守ることは何より大切となります。

東日本大震災の後、民間企業を筆頭としたさまざまな団体が、PCなどのハードウエアや衛星通信ネットワークを無償で提供していました。経済資本は、このような社会関係資本を通じて代替物の入手が可能となりますが、組織資本、大槌町の事例においては各種サーバに格納されていたデータは、失われると代替物による復旧が難しいのです。泥水に漬かったサーバのハードディスクから救出が行われた結果、復旧できなかった(永遠に喪失した)データも存在しました。

皆さんの企業なら、「組織資本」は就業規則から始まり、さまざまな契約書類、取引先のデータなど、多岐にわたります。事業継続の観点からは、災害対応マニュアル、事業継続計画、業務再開フローなど、全てが組織資本に当たり、災害時にはそれらの活用が重要となります。ただ一方で、想定外の事象が発生する災害においては、事前に、どの組織資本が必要となるのか正しく予測することが難しい、ということもお分かりいただけるかと思います。

この点は、今後の災害対応を考える上ではジレンマとなるのですが、解決に向けた考察はいくつか事例をご紹介した後に行いたいと思います。今回は災害対応における組織資本の重要性を提示して終わりにします。

* A. Dean and M. Kretschmer, “Can Ideas be Capital? Factors of Production in the Postindustrial Economy: A Review and Critique,” Academy of Management Review, vol. 32, no. 2, 2007, pp. 573-594. および M. Mandviwalla and R. Watson, “Generating Capital from Social Media,” MIS Quarterly Executive, vol. 13, no. 2, 2014, pp.97-113. を改変。

(了)