2019/03/20
レジリエントな社会って何?
事例から得られる教訓
さて、これらの事態はいずれも、町の地域防災計画では想定していなかった事柄でした。この事例から、どのような教訓を得ることができるでしょうか?
庁舎やサーバのハードウエアといった経済資本は、喪失した際の代替が、他のキャピタルに比べて容易である、と言えると思います。一方で、組織資本(本事例の場合はデータ)は、ひとたび失われると回復が難しいという特性が見てとれます。今回は多くをご説明することができませんでしたが、人間資本も一度失われると回復することができないため、命を守ることは何より大切となります。
東日本大震災の後、民間企業を筆頭としたさまざまな団体が、PCなどのハードウエアや衛星通信ネットワークを無償で提供していました。経済資本は、このような社会関係資本を通じて代替物の入手が可能となりますが、組織資本、大槌町の事例においては各種サーバに格納されていたデータは、失われると代替物による復旧が難しいのです。泥水に漬かったサーバのハードディスクから救出が行われた結果、復旧できなかった(永遠に喪失した)データも存在しました。
皆さんの企業なら、「組織資本」は就業規則から始まり、さまざまな契約書類、取引先のデータなど、多岐にわたります。事業継続の観点からは、災害対応マニュアル、事業継続計画、業務再開フローなど、全てが組織資本に当たり、災害時にはそれらの活用が重要となります。ただ一方で、想定外の事象が発生する災害においては、事前に、どの組織資本が必要となるのか正しく予測することが難しい、ということもお分かりいただけるかと思います。
この点は、今後の災害対応を考える上ではジレンマとなるのですが、解決に向けた考察はいくつか事例をご紹介した後に行いたいと思います。今回は災害対応における組織資本の重要性を提示して終わりにします。
* A. Dean and M. Kretschmer, “Can Ideas be Capital? Factors of Production in the Postindustrial Economy: A Review and Critique,” Academy of Management Review, vol. 32, no. 2, 2007, pp. 573-594. および M. Mandviwalla and R. Watson, “Generating Capital from Social Media,” MIS Quarterly Executive, vol. 13, no. 2, 2014, pp.97-113. を改変。
(了)
レジリエントな社会って何?の他の記事
おすすめ記事
-
企業理念やビジョンと一致させ、意欲を高める人を成長させる教育「70:20:10の法則」
新入社員研修をはじめ、企業内で実施されている教育や研修は全社員向けや担当者向けなど多岐にわたる。企業内の人材育成の支援や階層別研修などを行う三菱UFJリサーチ&コンサルティングの有馬祥子氏が指摘するのは企業理念やビジョンと一致させる重要性だ。マネジメント能力の獲得や具体的なスキル習得、新たな社会ニーズ変化への適応がメインの社内教育で、その必要性はなかなかイメージできない。なぜ、教育や研修において企業理念やビジョンが重要なのか、有馬氏に聞いた。
2025/05/02
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方