訓練ではEVと外部給電器をつないだ照明がしっかり光った

東京都練馬区は災害時の電源対策として、電気自動車(EV)活用に注力している。災害時にEVからの電力を、外部給電器を使って避難所などに供給する。3月23日に同区が「避難拠点」と位置付ける区立光が丘春の風小学校で実動訓練を行った。

東日本大震災での教訓から、練馬区は2016年3月に「練馬区エネルギービジョン」を策定。災害時のエネルギーセキュリティの確保を重点課題に掲げ、その取り組みの一つとしてEVなどを緊急電源として活用することとしている。

練馬区では現在、EV10台、水素で走る燃料電池自動車(FCV)2台を導入しており、なかでも区内を24時間365日巡回している「安全・安心パトロールカー」7台を、2018年9月、日産のEV「日産リーフ」に更新した。日産リーフのバッテリーは40キロワット時。一般家庭の1日あたりの電気使用量は約12キロワット時といわれており、1台で約2~3日分の容量があることになる。区は災害時の有効活用と平常時の環境配慮の両方で、EVの活躍を見込んでいる。

また、災害時により多くのEVなどを確保するため、区は2018年8月、「災害時協力登録車制度」を創設。区民や事業者が所有するEVなどを、災害時に避難拠点(区立小中学校)の緊急電源として活用するもので、現在5台が登録されている。震度6弱以上の地震が発生した際には、登録したEV所有者はあらかじめ指定された避難拠点に駆けつけることになる。

こうした取組をさらに推進するため、練馬区は2018年9月6日に日産自動車株式会社、東京日産自動車販売会社そして日産プリンス東京販売株式会社と災害時におけるEVからの電力供給に関する協定を締結した。

この協定により、災害時に区はEV試乗車やモニター車、急速充電器の提供を受けられることになっている。区内には日産自動車販売店が6店舗あり、発災時は区の職員が販売店でEVを借り受け、避難拠点まで運転する。各店舗では災害時協力登録車制度への登録を促すパンフレットも配布することも含まれており、区の制度周知にも協力している。

災害時は練馬区職員が区内の日産販売店にEVを借りに来る

協定を締結している日産プリンス東京販売の日産ハイパフォーマンスセンター谷原店では、いざという時に3台のEVを提供できる体制を整えている。店長の内田好人氏は東京都ではEVを購入した場合5年間の自動車税免除や補助金が活用できるなどの利点を説明。「災害時に電源としての活用も意識して購入する顧客も増えている」という。1月下旬、日産はにさらに大容量の62キロワット時のバッテリーを搭載した「日産リーフe+」を発売開始した。このEVを活用すればより長い期間にわたって電力を供給することが可能だ。

災害時のEV活用について話す練馬区の瀧氏(左)と日産の内田氏

加えて、練馬区はホンダが開発した外部給電器を7台導入している。外部給電器とは、EVやFCV、プラグインハイブリッド車(PHEV)などの電動車両の駆動電力(直流)を家庭用電源(交流)に変換するもの。ホンダが開発した外部給電器「Power Exporter 9000」は最大9キロボルトアンペアの電力を取り出せ、また高品質な電力の供給により精密機器なども安定稼働でき、平常時のほか災害時の非常用の電源としても活用可能だ。練馬区は2019年度には3台追加導入し、区内10カ所の医療救護所となる避難拠点に配備する予定だ。

区立光が丘春の風小学校は区の指定する避難拠点の一つ。3月23日の訓練には、夜間にもかかわらず、地域住民はじめ区職員、日産・ホンダの関係者含め約40人が参加した。今回の訓練では倉庫から投光器などの器材を取り出し、職員によって運ばれてきた日産「リーフe+」とホンダの外部給電器「Power Exporter 9000」をつないだ。外部給電器から取り出した電力により、投光器の明かりがこうこうと輝くと、参加住民から歓声があがった。参加者は、外部給電器からの携帯電話の充電も体験した。

EVからの給電による携帯電話の充電の様子

光が丘春の風小学校・光が丘第二中学校避難拠点運営連絡会の伊藤義則会長は「スムーズに使えて驚いた。できれば常時EVをここに置いておきたいぐらいだ」と感想を語った。参加者の一人は「技術の進歩はすごい。EVは充電箇所が少ないと思っていたけど、全国に約3万カ所あると聞き、普段も安心して使えることがわかった」と話していた。

練馬区環境部環境課の瀧真人氏は、「『災害時協力登録車制度』は現在、全国の自治体では当区のみが進めている取り組み。しかし、同制度の周知には区独自の広報だけでは限界がある。普段、EVユーザーと接する機会の多い自動車販売店には、より多くの方への制度周知を期待している。これからも区民の方々、事業者の方と協力して、自立分散型エネルギー社会の実現に向けた取り組みを進めていきたい」と話した。

実動訓練で使用された外部給電器

ホンダの外部給電器は、電動自動車用充放電システムガイドラインV2L DC版に準拠した電動車両であれば他のメーカーの車両からでも電気を取り出せる。ホンダでは開発した外部給電器を自動車メーカーの垣根を越えて利用したいと考えており、電動車両を製造するメーカーに協力を呼びかけ、練馬区のような取り組みを支援していく方針としている。

■練馬区災害時協力登録車制度の詳細はこちら
https://www.city.nerima.tokyo.jp/kurashi/shigoto/oshirase/saigaijikyouryoku.html

■練馬区と日産との協定の詳細はこちら
https://www.city.nerima.tokyo.jp/kusei/koho/hodo/h30/h3009/300906.files/300906.pdf

■日産のEV「リーフ e+」の詳細はこちら
https://www3.nissan.co.jp/vehicles/new/leaf.html

■ホンダの外部給電器「Power Exporter 9000」詳細はこちら
https://www.honda.co.jp/smartcommunity/pe9000/

(了)

リスク対策.com:斯波 祐介