2016/06/08
C+Bousai vol1
「対策」ではなく「思想」を創る


「避難放棄者を出さない」黒潮町の防災思想
「町長から最初に言われたことは、新たな想定に対して『対策を練れ』ではなく『思想を創れ』でした」(黒潮町情報防災課長の松本敏郎氏)。
それまで黒潮町の防災計画の基礎となっていた津波高は2003年に県から発表された8m。それでも大変な高さだが、34.4mは桁が違う。おそらくそれまでの防災計画の手直しという「対策」レベルでは、限られた予算や人員の中、根本的な解決は不可能だ。町長の「対策を練るのではなく、思想を創る」という真意がここにある。
その思想を創るために、黒潮町役場では、町長はじめ防災情報課などの職員が気仙沼を中心に東北を視察し、現地のヒアリングを行った。被災地の惨状を目のあたりにして、黒潮町では圧倒的な優先度として「人命」を掲げることを改めて決意したという。そのために何を思想の中心にもってくるか。ヒアリングを通して得た結論は「あきらめない」「避難放棄者をださない」ことだった。大西氏は防災思想を創る上での本質を次のように話している。
「私は防災の本質は『自分の人生と向き合うこと』だと考えている。まず個々のより良い人生を実現するという本質があり、そこに災害が降りかかる。災害を自分の人生の中でどのくらいのボリュームで位置づけられるのか。自分が幸せになるためには、災害とどのように向きあっていかなければいけないのか。それを住民の皆さんに考えてほしいと思った」。
「避難をあきらめる」ことは「人生をあきらめる」ことに他ならない。人生をあきらめないこと。それは大西氏から住民への、防災以外の普段の暮らしも含めたメッセージだった。新たな想定の発表から1カ月あまり後の5月、黒潮町の地域防災計画は「避難放棄者を出さない」という基本理念をもって再構築することに決まった。「あきらめない。揺れたら逃げる。より早く、より安全なところへ」というフレーズを作り、犠牲者ゼロを目指す方針を策定した。
C+Bousai vol1の他の記事
- 「対策」ではなく「思想」を創る 住民と900回のコミュニケーション (高知県黒潮町)
- C+Bousai 創刊挨拶、地区防災計画学会 案内
- 特別対談|住民の権利と責任を制度化 自ら考え行動する地産地消の防災
- 市内全域8地区で防災計画 住民主体でガイドブックも作成 (北海道石狩市)
- 地域コミュニティごと防災計画策定 避難所運営計画、防災マップ作成も呼びかけ (香川県高松市)
おすすめ記事
-
企業理念やビジョンと一致させ、意欲を高める人を成長させる教育「70:20:10の法則」
新入社員研修をはじめ、企業内で実施されている教育や研修は全社員向けや担当者向けなど多岐にわたる。企業内の人材育成の支援や階層別研修などを行う三菱UFJリサーチ&コンサルティングの有馬祥子氏が指摘するのは企業理念やビジョンと一致させる重要性だ。マネジメント能力の獲得や具体的なスキル習得、新たな社会ニーズ変化への適応がメインの社内教育で、その必要性はなかなかイメージできない。なぜ、教育や研修において企業理念やビジョンが重要なのか、有馬氏に聞いた。
2025/05/02
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方