2015/05/25
事例から学ぶ
徹底した安全文化を構築している企業として世界的に有名な企業が化学メーカー大手のデュポンだ。耳を疑うかもしれないが、同社では、「階段の上り下りの際にはいつも手すりを持つ」のが常識。1802年に火薬製造業として創業し、以来200余年に渡って取り組んできた安全文化は同社の中心的な企業理念(コアバリュー)になっている。
(編集部注:この記事は「リスク対策.com」VOL.49 2015年5月25日掲載記事をWeb記事として再掲したものです。役職などは当時のままです。2016年11月8日)

4つのコアバリュー
「デュポンでは、コアバリューとして安全文化が根付いています。防災や災害対策もこの延長線上にあり、社員の安全意識は高い」と語るのはデュポン安全衛生環境部課長の柄澤理恵氏だ。
同社のコアバリューは「安全と健康」「環境スチュアードシップ」「人間尊重」「高い倫理基準」。コアバリューとは、最も重視する理念であり、従業員が物事を判断するときの指標にもなる。
「安全」はコアバリューの中でも真っ先に掲げられている。「例えば、車でシートベルを着用するということは、デュポンのコアバリューに照らし合わせたら非常に重要なこと。後部座席でも必ず着用する。つまり、自分たちがデュポンの社員として、守り続けなくてはいけない絶対的な理念」と同社コーポレートコミュニケーション部部長の持田伊佐人氏は説明する。
同社では毎年、グロ-バル単位で、全社員に対して、コアバリューの重要性を再確認するオンライン教育を行っている。新入社員もベテラン社員も、同社に在籍するすべての社員は、毎年、この教育を受けることが義務付けられている。事故の防止、防災、コンプライアンスの必要性、さらに取引などで起こりうる具体的なトラブルなどについて、どのような行動をとるべきかを一人ひとりに考えさせているのだと持田氏は言う。

法令では設置義務のない、会社経営陣が出席する「中央安全衛生環境委員会」が毎月開催されている。その下位組織として各事業所において安全衛生(環境)委員会が設置されている。コアバリューミーティングは各事業所の委員会の下に構成されているもので、役員をはじめ全ての社員が参加することになっている。
東京事業所の場合、東京安全衛生(環境)委員会があり、その下に全部門を10のユニットに分けており、各ユニットでコアバリューミーティングを開催している。コアバリューミーティングは、日常の業務の中で、コアバリューに抵触する問題が起きていないか、改善することは無いか、繰り返し考える「場所」でもある。
業務の都合で参加できないときは別ユニットのコアバリューミーティングに参加する。事業所によっては毎月1時間など頻度や時間はそれぞれ異なる。ユニットにおいて数名のコーディネーターが任命されミーティングをリードしているという。
コアバリュー・ミーティングで取り上げられる内容は、幅広く災害備蓄品についても話し合われる。例えば全社員に支給している非常持ち出し袋の中身については「これまで配布されていた水は2Lのペットボトル1本でしたが、衛生面や持ち運びのしやすさから500mlを4本がいいのではないか。これまでの避難リュックでは肩紐が食い込むため、移動に不向きなので肩ベルトタイプにすべきではなどの提案や雨具の要望が出るなどしました」と柄澤氏は語る。
持田氏は「コアバリュー・ミーティングは企業理念を共有する重要な場所。俺たちの見方ならどうなのか、みんなと共に考える場所。共有する場がなければ企業理念は身に付かない」とする。
こうした特別の場だけでなく、日常業務の中にもコアバリューは浸透している。「部門ごとの定例会議でも、冒頭に安全について説明することがデュポンでは普通のことです」(柄澤氏)。
産休の社員に水や乾電池を支給

東日本大震災以前から地震対策としてオフィス内の整理整頓を奨励し、収納用のキャビネットなどの備品は固定し転倒を防止していた。通路を塞ぐ可能性のある物は置かないなど取り組みを徹底し、東京事業所では東日本大震災の揺れによる被害は全くなかったと、柄澤氏は振り返る。
産休を取得していた社員には、半年間にわたり、水や乾電池など、会社から支給品が送られた。当時は、首都圏でも福島第一原子力発電所の事故が原因で放射能が検出され、さらに計画停電が行われていた時期。スーパなどでは水や懐中電灯に使う乾電池を求める人たちが殺到し、どこも品切れの状態だった。「子どもを持つ社員には、まず水と乾電池の配給をすることをトップが即断しました」(柄澤氏)。
事例から学ぶの他の記事
おすすめ記事
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方