2023/10/27
事例から学ぶ

パナソニックグループは、日常的に業務で使っているTeams上で、発災時に素早い情報共有を実現するシステム「災害ポータル」を開発し、運用を開始した。誰もが普段から頻繁に利用しているTeams上で稼働するシステムのため、災害時にも簡単に使うことができる。またローコード開発ツールであるMicrosoftのPower Appsを使うことで負担を抑えることにも成功した。2020年の試作を経て、2021年から情報システム部門に先行導入し、現在、グループ全体に展開中である。現場が求めるツールを目指し、現在もアジャイル式開発の最中にある。さらに同社の災害ポータルは、現場の意識改革を引き起こしている。
顕在化した情報共有での課題
パナソニックグループでは、2021年から日常的に使うグループウェアであるマイクロソフトのTeams上で稼働し、発災時にグループ内で素早い情報共有を実現するシステム「災害ポータル」を情報システム部門に先行導入、運用を開始した。開発担当のパナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社情報システム本部に所属する青江多恵子氏は「念願のシステム」と話す。このシステム開発は、青江氏の東日本大震災やタイの大洪水など災害時の経験が契機になっている。
2011年、青江氏が本社リスクマネジメント室に配属されて間もない3月に、東日本大震災が発生した。続く10月にはタイで大洪水が起こった。青江氏はいずれも全社緊急災害対策本部(現:グループ緊急対策本部)の事務局の一員として、力を尽くした。
「グループでは、東日本大震災で初めて全社的な災害対策本部を設置しました。緊急対策本部にはメール、電話、FAXなどから膨大な被害状況の報告が届き、被害情報を集約、共有するために、多くの時間を要しました。意思決定を迅速化するためには、被害情報集約の効率化が必須と考えました」と青江氏は振り返る。
その後、東日本大震災やタイの洪水での経験を経て、あらゆる危機に対応できる「結果事象型」のBCPである「パナソニックグループBCM構築ガイドライン」を作成、国内外約200の事業場のBCPの策定およびBCMの構築を支援した。それでも災害時の情報共有には不安を残したままだった。
2013年に情報システム部門に異動した青江氏は、BCP/BCMのICT化を担当した。東日本大震災などの経験を踏まえ、スピーディな情報収集と共有を可能とするシステムの導入を模索したという。しかし、条件に合致するものは見つからなかった。
導入における条件は日常的に使っているツールであること。災害時だけに稼働するシステムでは、使い方を忘れかねないという危惧があった。また、災害という特殊な条件でのみ利用するシステムのために多くの予算を割くのは容易ではなかった。「展示会などへの参加も含め、たくさんのツールを検討しました。良いシステムはたくさんありますが、リーズナブルで、かつ、パナソニックの現場に合うシステムは、なかなか見つかりませんでした」と話す。
転機が訪れたのは、新型コロナウイルスの流行だった。社内の一部でコミュニケーションツールとしてTeamsを日常的に活用し、その使い勝手の良さが共有されはじめていた。青江氏も、以前からTeamsには注目していたが、普及以前では災害対策用のためだけにライセンスを付与するには、コストがかかりすぎた。
ところが、新型コロナウイルスの流行により社員の在宅勤務が増えたことを機に、Teamsの全社員による利用が加速した。そこで青江氏は、Teamsを活用したシステム開発を上司や部門メンバーに相談。マイクロソフトのPower Apps を使えば、それほどコストもかけずに、災害時に情報共有を可能にするアプリが簡単に作成できるとのアドバイスを得た。
事例から学ぶの他の記事
おすすめ記事
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方