”恐ろしい悪鬼“それがクライシスだ

それには自然災害のような広域にわたる包括的なものから、アクティブシューターのような一点集中的な破滅的なものまで、あらゆるものがありうる。パラレルな宇宙であなたが遭遇するクライシスがいかなる種類のものであれ、クライシスとは言えないものが何であるかを理解することが有益である。

クライシスは出来事ではない。概念でもないし生命のないものでもない。行き当たりばったりのものでもないし、幸先の良いものでもない。非人間的で欠陥のある、思考と意思を持つ生き物である。思考にはいいものは何もなく、意思は全て邪悪なものである。

クライシスはあなたを破壊しようとするドラゴンなので、殺さなければならない。それはあなたがパラレルな宇宙に足を踏み入れる瞬間に、あなたを標的の十字線で捉える。あなたがそこに来たとき思考力を働かせなければならないということを知っているので、妨害行為を始める。

それはあなたの身体全体に電荷をかけ、トカゲ脳とホルモンのカクテルによって前頭葉の大脳皮質を停止させてしまう。高度の思考が緩慢になるにつれて、クライシスはあなたの頭脳を苦悶に満ちた思考と悲痛な感情であふれさせる。頭の中ではクライシスの声が聞こえる。「お前はこれを乗り越えられない」。「ここから抜け出す方法などない」「知ってのとおり、お前の人生は終わりだ、そして戻ってくることはない」。

ハーバード大学のレナード・マーカス博士とバリー・ドーン博士はこの扁桃体(へんとうたい)に支配された状態を“感情の地下室”と呼んでいる。

暗くかび臭い地下室でよろめきながら、悲しみ・恐れ・怒り・悔悟などの入り混じったネガティブな感情に打ちひしがれる。愛する人や友人の死に始まり、誕生会やビーチへの旅行にいたるまで、あまりに多くの失われたものを悲しむ。

あなたは厳しい試練を恐れる。苦しい問題に次から次に直面することを知っている。解決できるものもあるが、全ては不可能であり、少なくとも時間はかかる。それらは解決されるまであなたをひどく悩ませるだろう。

仕事を恐れる。昨日までのように、あるいは明日はこうしようと計画したようには働けないことが分かっているからである。倍以上の、たぶんロースクールの時代も含めて、あなたの人生でこれ以上はなかったというハードワークになるだろう。

こうした状況になった原因であるかもしれない、したこと、しなかったこと、に対して怒りと後悔を感じる。ボブ・ノリックスのことで警察に相談すべきではなかったか、裏のドアのセキュリティについてもっとやっておくべきことがあったのではないか、といったことである。

あなたは自分の人生を、世界とその世界にある全てのものを憎む。

これがあなたの真実のときである。

やるのかやらないのか決断をしなければならない運命のときである。舞台から降りて背景へ消え去るのか、あるいは舞台に上がるのかである。

クライシスはあなたの頭脳をどろどろしたものー整然とした物分かりの良い思考から白色雑音(広い周波数域で発生する雑音)ーへと変えてしまったが、逆戻りはできないこと、それから逃げ去ることはできないことは知っている。あなたは集中して、あごを引き締めて、第一歩が、第二歩へ、さらには第三、第四、第五歩へとつながるだろうとの必死の望みをもって、最初のステップを踏み出す。

完全な情報がない中で、数十もの答えのない疑問がある中で、乗り越えるのは不可能と思える障害に直面して、危険とリスクがある中で、あなたは振り返ってドラゴンと向き合う。

マーフィーの補遣
運転中にかかってきた電話を取ったとき、あの運命の金曜日の午後の数週間、あるいは数カ月前は、あなたは自信に満ちていた。実のところそれほど考えていたわけではないが、聞かれれば、いつかクライシスが来て、それに直面しなければならないということには同意しただろう。その挑戦はやりこなせるだろうとの思いも強かった。思うところ、そうしたことは人生には付き物であり、以前にも困難にあったことはある。少しばかりの幸運と、多くのハードワークがあれば、切り抜けることができるとの自信があった。

一旦パラレルな宇宙に入ってしまえば、その自信は粉々に打ち砕かれる。以前はあなたのためになったことの全てがそうではなくなり、あなたのためにそこにいてくれた人たちは誰もいなくなってしまう。

しかしクライシスがそこでやめることはなかった。それはあなたの最も重要な資産に狙いを定めた。あなたの時間に手を出したのだ。物事の進行を遅らせ、そして瞬時に、ほとんどを停止させてしまう。それから傲慢に笑いながらクランクで文字盤を回して、突然時間を早鐘のように走らせ始めた。数日は数時間となり、数時間は数秒となる。

その間中、クライシスはあなたが考え出すことにはことごとく逆らって、あなたを欺いた。あなたがAを考えているなら、クライシスが出すのはZである。 

(続く)

翻訳:杉野文俊
この連載について http://www.risktaisaku.com/articles/-/15300