ミャンマーは日本の約1.8倍の面積で、人口は約5,390万人を有するASEAN有数の国です。長く軍事独裁政権が続きましたが、2011年3月30日、民政移管が行われ、欧米諸国による経済制裁も段階的に緩和されて来ています。更に、2015年11月8日に実施された総選挙でスー・チー議長率いるNLD(国民民主連盟)が全議席の6割弱を獲得し、2016年3月30日にはNLD党員のティン・チョウ氏を大統領とする新政権が平和裏に発足する等、海外企業の関心が一段と高まっています。現在、日本企業の進出は259社(日本外務省:2014年10月現在)に達し、2年前(2012年)に比べ、3倍以上となっており、「アジア最後のフロンティア」とも呼ばれています。

一方でミャンマーでのビジネスでは、脆弱な社会インフラ、工業団地等の生産関連インフラの不足、未整備な法制度、高いテロ脅威、政治体制の腐敗等、数多くのリスクを抱えており、進出している日本企業にとって、大きな課題となっています。しかしながら、ミャンマーには日本ではあまり知られていないリスクもあります。今回はミャンマーの自然災害リスクについて、話したいと思います。

国連大学環境人権研究所が毎年発表している自然災害のリスク(発生可能性・脆弱性等を総合的に勘案)のランキング(ランキングが上位な程リスクが高い)では、ミャンマーは171ヶ国中43位で、新興国の中でもリスクの高い国となっています。下記図表は国連国際防災戦略事務局(UNISDR)が運営する世界的な自然災害のデータベースであるEM-DATから抜粋した1900年以降のミャンマーでの自然災害についての統計です。

図表


ミャンマーにおいて、人的被害、被害額共に最大の自然災害リスクは風害(サイクロン)です。サイクロンは通常、ベンガル湾で発生し、西進することがほとんでですが、一部がミャンマーに上陸することもあります。その場合、甚大な被害が発生することとなります。2008年5月3日にはサイクロンNargisがエーヤワディ管区及びヤンゴン管区に上陸し、約1週間にわたりミャンマーの人口密集地を直撃し、死者84,537人、行方不明者53,836人に上る甚大な被害をもたらしました。

ミャンマーにおいて、サイクロンと共に最も発生件数が多いのが洪水です。ミャンマーには大河川として、エーヤワディ川、タンルウィン川、チンドウィン川、シッタウン川がありますが、ミャンマーの大都市のほとんどは、これら大河川の近くに位置しているため、洪水のリスクは高い状況となっています。

もう一つ、忘れてはならないのが地震です。日本ではあまり知られていませんが、ミャンマーは地震多発地帯となっています。ミャンマーは西部からバングラデシュ及びインドにかけて、インド・オーストラリアプレートとユーラシアプレートの境界があり、同地域から東部にかけて、地震が頻発しています。

特にミャンマー中央部を南北に走る大規模な断層であるSagaing断層(ビルマ中央断層)は横ずれの活断層で、過去にM7.0以上の地震が数多く発生しています。このSagaing断層は、南はヤンゴン東部のバゴー管区のバゴー県から首都ネピドー、更には第2の都市であるマンダレーを貫き、中国国境のカチン州まで伸びており、全長1,200kmに達する大規模な断層帯となっています。

今後、この断層帯で地震が発生した場合には、政治・経済・社会に大きな被害をもたらすことが危惧されます。一方で、ヤンゴン市内を含め、ミャンマーでは地震対策が、それ程、講じられていない状況であり、発生した場合の被害は極めて甚大になる可能性が高いことに留意する必要があります。

(了)