南米大陸初のオリンピックがブラジルのリオデジャネイロで、2016年8月5日から8月21日にかけて開催されますが、現状のブラジルの政治、経済が混乱していることは、ご存知の通りです。今号では、劣悪とされている治安問題について、まとめてみました。

世界的に見ても、ブラジルの治安状況の悪さは突出しており、国連の統計では、殺人事件発生率(人口10万人当たり)は日本の約90倍に達しています。

都市部では、窃盗、ひったくり、スリ等は当然のこと、殺人・強盗・強姦等の凶悪犯罪、短時間誘拐(稲妻誘拐:Sequestro relâmpago:サンパウロ市内では1日平均12件発生)が日中でも発生しており、そのほとんどで、銃器等が使われれることが大きな特徴となっています。

強盗の種類も、歩行者を狙った路上等での強盗(歩行者強盗)、自動車を狙った強盗(自動車強盗)、住宅(含:集合住宅)での強盗(住宅強盗)等、多岐にわたっており、日常茶飯に発生しています。

更に、バス・鉄道・地下鉄等の公共交通機関での強盗事件も多発しており、リオデジャネイロ市では2016年1月だけで、バス車内で462件の強盗事件が発生したとされています。

 

ちなみに、在ブラジル日本大使館のHPで連邦直轄区と日本との犯罪発生率(人口10万人当たり)の比較が掲載されていますが、それによれば、ブラジル連邦直轄区の犯罪発生率は日本と比べ、下記のような数値となっています。

殺人:約28倍
強姦:約25倍
歩行者強盗:約1,500倍
自動車強盗:約1,700倍
住宅強盗:約120倍


近年におけるブラジルでの犯罪傾向としては、歩行者強盗において、換金性の高いスマートフォン(特に高額で取引されるiPhone)が狙われるケースが大幅に増加しています。また、空港・観光地のATM使用時、買い物での使用時にカードの磁気情報を不正に読み取られ、偽造カードで口座の現金を引き出されるスキミング被害も多発しています。

ブラジルでの高い犯罪発生率を助長しているものとして、都市部におけるファベーラ(スラム街)の存在があります。特に、リオデジャネイロ、サンパウロ等の大都市にあるファベーラは、警察もほとんど立ち入ることが出来ないエリアもあり、一般の旅行者等が立ち入った際には、高い確率で犯罪被害が発生しています。

中南米諸国が共同で運営しているラテンアメリカ社会科学研究所(FLACSO)によれば、ブラジル全土(平均)の殺人事件発生率は1998~2012年の15年間で、それ程大きな増減はありませんが、地域別では大きな変化が生じています。

1998年当時においては、リオデジャネイロ、サンパウロ等の大都市がある南東部地域が最も高く、それ以外の4つの地域が南東部地域の半分程度でしたが、2012年においては逆転し、南東部地域が最も低くなり、それ以外の4地域が大幅に増加しています(リオデジャネイロ、サンパウロの殺人事件発生率は、ここ15年間で約半分に減少していますが、それでも、日本の約90倍、約50倍という高さです)。

地域別で最も高い地域はレシフェ等がある北東部地域で、州別ではアラゴアス州がブラジルで最大の発生率となっています。次いで発生率が高いのはマナウスがあるアマゾナス州、ベレンがあるパラー州をカバーする北部地域です。

特に、マナウスは麻薬密輸の中継地として、麻薬関連の犯罪も急増しており、銃器を使用した殺人・強盗・短時間(特急)誘拐等の凶悪犯罪が昼夜を問わず発生しています。また、ベレンにおいても、一部地区で急激に治安状況が悪化しており、留意が必要です。

(了)