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リスクへの的確な対応には、そのリスクの特性に合ったアプローチが必要である。社会課題は社会システムや自然システムなど複数で多様なシステムが重なり合った領域で発生している。そのため、企業が社会課題のビジネス化に取り組む過程では、個々の社会課題が持っている不確実性に的確に対処していかなければならない。

社会課題に関わる不確実性は、これまで企業がリスク管理の対象としてきた伝統的なリスクとは異なる特徴を持っている。伝統的なリスクは、企業活動が市場メカニズムを通じて関わる財務要素を中心としたリスクといえる。社会課題に関わるリスクは、市場メカニズムに組み込まれていない要素(非財務要素)が多い。この非財務要素に関わるリスクは、伝統的リスクのように豊富な市場情報やデータが存在しないため統計処理によって定量的にその特徴を把握することができない。また、市場での評価が存在しないため、リスクに対して、関係者間で認識や評価の標準化が進んでいない。これらのことから想像できるように、社会課題のビジネス化に伴うリスクに対して、企業が伝統的リスクに使用した管理手法をそのまま適用することができない点に留意しなければならない。

社会課題のビジネス化と将来の不確実性

将来の具体的なシナリオをかなりの確からしさで予測できる場合は、起こりうる将来シナリオを描き、そのシナリオに大きな影響を及ぼすドライバーを少数に絞り込むことも可能であろう。しかし、このような絞り込みが困難なケースでは、無数の将来シナリオが想定される場合は、過去の多数の結果データから将来のシナリオの範囲を推定するといった統計分析を活用することとなる。すなわち、過去の結果から確率分布を導出しその傾向が将来も繰り返されるという前提で、その期待値と標準偏差から、将来のシナリオ群の結果を幅をもって推定する。このようなアプローチは、不確実性に対して伝統的なリスク管理が採用してきた方法である。しかし、将来のシナリオは過去のデータに基づく傾向から乖離する場合にはこの方法を適用できない。