2016/10/30
世界から求められるEHS 環境、健康・衛生、安全を一体的に推進!
Q8.EHSのメリットがわかりにくいとの指摘もあります。
グローバルビジネスのサプラヤーならCSRの監査を受けます。CSR監査の項目は、EHS+労働・倫理+マネジメントシステムです。過去に米国・ナイキがサプライヤーの児童労働で批判され、サプライチェーン全体に厳しい目が注がれるようになりました。アップルはサプライヤーに社員寮の2段ベッドの高さまで指定するほどの細かい要求があります。また、労働災害の責任は日本なら怪我をした本人にあると思われることもありますが、海外なら会社が訴えられます。環境および労働安全衛生を高いレベルで管理している裏づけとしてEHSがあるのです。
EUのCSRの定義は、「共通価値の創造」と「潜在的悪影響の特定と軽減」です。グローバル企業がサプライヤーに期待しているのは「潜在的悪影響の特定と軽減」だということです。株主も訴訟による高額な賠償金や違反の罰金を避けたいのでEHSに目を向けます。
これは、日本企業がグローバルにビジネスを広げ、サプライヤーを使う場合も同様なのですが、適切に管理できていない状況も多いようです。
Q9.EHSによる統合的なマネジメントでリスクが低減できるのでしょうか?
例えば、日本では労働災害が少ない国だと考えられています。確かに休業災害で見れば米国の20分の1ほどです。しかし、死亡災害に注目すると英国やスウェーデンより悪く、米国と同じレベルです。これは休業で済むような小さな事故なら日本的な社員教育を中心にしたボトムアップ対策が有効なのに対し、重篤事故の防止には効果が低いことを示しています。日本の鉄鋼会社は厳しい安全管理を実施していますが、それでも毎月のように死亡事故が起きています。「注意しろ、禁則事項を守れ」と作業者の負担を増やすことはよくありますが、マネジメントの責任はあまり追及されない。企業の安全管理のレベルは事故調査報告書を見るとわかります。マネジメントのどの部分に欠陥があって事故に至ってしまったのか。その欠陥を事故が起きる前から監査を通じて明らかにして是正することでリ
スクが低減できるのです。
Q10.クライシスマネジメントもEHSで可能なのでしょうか?
典型的な例としてISO14001には緊急事態がありますが、ほとんどの会社の想定は事業所内での化学物質の漏洩や軽度な労働災害程度しか想定していません。しかし、例えば米国のEHS監査員は施設にロケットを打ち込まれたらどうするかなど日本人では考えられないことまで問います。日本なら「起こりえない」で済ませてしまいますが、想定外をどこまで想定するかがEHSのレベルとも言えるのです。クライシスマネジメントに関しては、緊急事態(エマージェンシー)からクライシスへの転換点を考えることが不可欠となります。
Q11.これからEHSを始める企業にアドバイスをお願いします。
最初に必要なのはギャップ分析です。まず、あるべき姿(到達点)を明確にすることが重要です。ビジネスを国内に限定して、必ずしも高いレベルのマネジメントを選択しないのも1つの経営判断でしょう。グローバルにビジネス展開するなら、グローバル企業に学ぶことが重要です。そして、現状をしっかりと把握してギャップを明確にすることが必要です。重要なのはGRC、ガバナンス・リスク・コンプライアンスが機能する体制を整えることです。
(了)
世界から求められるEHS 環境、健康・衛生、安全を一体的に推進!の他の記事
- 【インタビュー】今なぜEHSなのか。欧米企業とは「大きな差」
- 【講演録】グローバル企業に求められるコンプライアンス~環境・労働安全衛生関連法規制の順守~
- 【先進事例】組織体制をシンプルに 環境を柱に一体的に推進
- 【先進事例】海外顧客の要求に応える 統合マネジメントでEHSを推進
おすすめ記事
-
柔軟性と合理性で守る職場ハイブリッド勤務時代の“リアル”な改善
比較サイトの先駆けである「価格.com」やユーザー評価を重視した飲食店検索サイトの「食べログ」を運営し、現在は20を超えるサービスを提供するカカクコム(東京都渋谷区、村上敦浩代表取締役社長)。同社は新型コロナウイルス流行による出社率の低下をきっかけに、発災時に機能する防災体制に向けて改善に取り組んだ。誰が出社しているかわからない状況に対応するため、柔軟な組織づくりやマルチタスク化によるリスク分散など効果を重視した防災対策を進めている。
2025/06/20
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/17
-
サイバーセキュリティを経営層に響かせよ
デジタル依存が拡大しサイバーリスクが増大する昨今、セキュリティ対策は情報資産や顧客・従業員を守るだけでなく、DXを加速させていくうえでも必須の取り組みです。これからの時代に求められるセキュリティマネジメントのあり方とは、それを組織にどう実装させるのか。東海大学情報通信学部教授で学部長の三角育生氏に聞きました。
2025/06/17
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方