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判断基準と計画運休

江東5区による広域避難検討の3日前の基準は2つ。72時間先の台風予報で中心気圧が930hPa(ヘクトパスカル)、降水量は荒川流域の3日間の積算雨量が400ミリを超えた場合。東京上陸3日前の10月9日の台風19号の中心気圧は915hPa。台風は気圧が低いほど高潮のリスクが高まる。台風19号については72時間前の段階で上陸時は950hPa程度を見込み、対象となる930hPaを下回ることはないだろうとみられていた。

しかし、発災予測時間の2日前をきった10月11日の午後2時に気象庁から雨量が400ミリを超えるこという情報が寄せられた。「もし上陸の3日前にこの数値であれば、広域避難検討となる数値だった」と江戸川区の危機管理室防災危機管理課統括課長の本多吉成氏は振り返る。2日前でも500ミリを超えるようなら、広域避難の可能性はあったという。11日の午前10時45分にはJR東日本が12日から計画運休を行うことも分かった。移動手段が絞られる中で、広域避難の際に近隣区との調整が必要となることから、11日の午後2時30分に江東5区間で電話による話し合いを行い、基準に満たないとして広域避難の実施は見送ることとなった。

深夜に台風の上陸が見込まれる10月12日の午前7時15分に雨量が500ミリ超えの可能性という話が、同9時30分には河川破堤が見込まれる600ミリは超えないという連絡が気象庁から江戸川区にもたらされた。同日にJR東日本は計画運休を実施した。

江戸川区は午前8時に災害対策本部を設置。広域避難ではなく区内での対応として同9時45分には避難勧告を発表した。この対象エリアは新中川の西側に限定されていたが、これは雨量500ミリの被害想定に基づいて判断したため。午前8時30分には区の公共施設6つに自主避難所を設置。さらには同9時40分に避難所開設指示を出したことから65の小中学校も開放を進め、うち約3分の1は1時間以内、残り約3分の2もおおむね2時間以内に準備はできた。最終的には105施設で避難者を受け入れた。

写真を拡大 台風19号で避難勧告が出されたのは、赤線で囲まれた新中川の西側(出典:江戸川区ホームページ)

本多氏は「午前8時の本部立ち上げから、避難勧告、避難所開設も早めに行い、とにかくまだ風雨が強くない明るいうちに避難ができるように心掛けた」と説明。万が一の際に逃げ込めるよう、最初に自主避難所とした6つ以外の区施設で通常営業も実施した。ツイッターや防災行政無線、登録者向けのメール通知、さらにはコミュニティラジオの「FMえどがわ」も使って避難勧告や情報の伝達に努め、区のホームページも落ちることはなかった。区民約70万人のうち、区内避難施設に3万5040人が避難した。「『ここにいてはダメです』のハザードマップが大きな反響を呼んだほか、明るいうちに避難できるよう対策本部や避難所の開設を行ったことも避難につながったと思う」と本多氏は分析。全体の把握は難しいが区外への避難や、しおりを作り準備をしっかりした避難者の情報も区には寄せられたという。対策本部では、避難所と避難者の健康状態などのやりとりを行った他、荒川や江戸川の上流域も含めた水位といった情報を国土交通省のライブカメラなどから収集。東京都の防災情報システムも活用した。避難勧告の解除は翌10月13日の午前8時となった。