住民(people)
前回ご紹介したように、ブリストルの住民のバックグラウンドは非常に多様性に富んでいます。45の宗教的背景を持つ住民が住み、91の言語が話されていて、出身地域は187に上ります。住民の多様性は今後も増加の一途をたどると予想されています。多様性が複雑さを増すにつれて、コミュニティ間や隣人間での不平等性が生まれてしまうことを課題と認識しています。他の地域と同様に、高齢化も課題としてのしかかっています。2039年までに90歳以上の住民は20%以上増えると予想されています。

住民をターゲットとしたアクションとして、路上のホームレス対策、文化活動を通じたコミュニティづくり、16歳から投票権を与えること、ボランティアの育成、市民データの活用、多様な住民を巻き込んだコミュニティをベースとした課題解決スキームの開発、などを掲げています。

場所 (places)
ブリストルは2015年に、イギリスの都市で初めてヨーロッパのグリーンキャピタルに選ばれています。2050年までにゼロカーボン(炭素)都市になるという野心的な目標を掲げました。目標を達成するためには住民の行動変容を促す必要があります。街中では交通渋滞やインフラの老朽化といった課題があり、住民の行動変容とあわせて重要なチャレンジとなっています。

場所をターゲットとしたアクションとして、ブリストルにおける新たな住宅供給モデルの開発(2020年までに2000の新たな住宅を供給)、16歳以下のバス利用無料化、隣人との関係強化、街に関する情報がどこからでも手に入りやすいようにする、空気汚染をなくす、気候変動に適応する(将来の洪水や豪雨リスクに備える)、街の金融システムをよりレジリエントにする、などを掲げています。

組織(organizations)
ブリストルのレジリエント戦略のキーワードは“協働”ですが、市内のさまざまな組織で既に協働は行われています。草の根運動とアカデミア、第三セクターと市役所、青年会議所とそのパートナー組織、などです。ただし、これらの協働は必ずしも自然発生するものではなく、ある程度の仕掛けも必要です。一方で、仕掛けをつくる側の政治はサイロ化(縦割り)していて、長期よりも短期的な視野で動く傾向があります。

住民の目線に立つと、多くの人々が街の未来や、広い意味での地域とのつながりをなかなか感じることができないでいます。住民の興味関心や願望を街の公的な計画に結びつけること、政治の意思決定プロセスを、より住民に寄り添った形で実現することが、長期的な住民との信頼関係を築くために重要だと考えています。

組織をターゲットとしたアクションとしては、市役所そのものの行動に焦点を当てたものが多くなっています。民族的マイノリティを市役所の上級職に採用する、内外のステークホルダーとの関係を強化する、ボランティア育成のための戦略を策定する、などです。このほか、18歳以下の子供を虐待やネグレクト(無視)から守るための組織的取組や、市内の多様な人や組織、アイデアをつなぐプラットフォーム機能を、街自体に持たせるための取り組みなどが掲げられています。

繁栄と価値(prosperity and worth)
ブリストルはGDPやGVAの観点からは、国の経済に大きく貢献しています。クリエイティブな事業を行うスタートアップ企業が多く存在し、特許の出願率も高くなっています。一方で、全ての住民が収入や就労機会へのアクセスを平等に持っているわけではないため、ギャップを埋めるための取り組みが求められています。すべての人が住みよい住宅を確保することも、重要な課題となっています。

GDPなどの統計上は経済的な成功を収めているブリストルですが、経済的指標では測ることのできない都市の価値――幸せや、2012年にローンチされたブリストルポンドという地域通貨――を、いかに共通認識として形づくっていくかという挑戦に挑んでいます。
 
ここでのアクションとしては、若者に様々な就労の機会や経験を提供すること、GDPだけでは測れない都市の価値をSDGsに基づく新たな指標で評価すること、起業家やビジネスリーダー、アカデミア、学生や企業がコラボレーションするための物理的な“場”の創出(デザイン)、グリーンスペースの確保、将来必要となるデジタルスキルを身に付けるためのプログラム開発(従来の学校教育でカバーされない部分)、55歳以上の住民が健康で長生きするための就労支援、そしてオープンデータプラットフォームの開発などを掲げています。

地域から世界へ(regional to global)
ブリストルで生まれたイノベーティブなプロジェクトは、地産地消や、炭素排出削減やゴミ処理、地域通貨ブリストルポンドの活用などにより、地域内で富の循環を促すことを目指しています。これらの取り組みは、一見、地域を対象としているとしているようで、実は世界や国レベルの動きと連動しています。電力供給のための設備投資や、世界的な食料供給システム、企業の国際化などは住民の生活と切っても切れない関係となっています。

生活に必要なサービス(電力や食料供給など)が国レベル、ひいては世界レベルで相互依存関係にあることは、地域がコントロールできる範囲を超えており、外からのショックに対する地域の脆弱性を生み出しています。

ここでのアクションプランは、100RCを中心とした他都市とのパートナーシップ強化が中心となっています。加えて、レジリエンスのインパクト評価指標づくりや、それらをシティレジリエンスに関するイギリスにおける標準につなげていくことを目指しています。コアとなる考え方は、ブリストルは誰に対しても、世界のどの都市に対してもオープンである、ということです。