2019/12/24
海外のレジリエンス調査研究ナナメ読み!
競争力低い古いシステム懸念
図1はアンケートの集計結果のうち上位1~6位までの平均値である。調査は今回が3回目であり、過去2回分の結果と並べて表示されているため、本稿では便宜上、今回発表された結果を「2020年版」、過去の調査結果をそれぞれ「2019年版」、「2018年版」と表記する(注2)。バーの中に表示されているアルファベットはそれぞれ、「M」が「マクロ経済に関する課題」、「S」が「戦略面の課題」、「O」が「事業運営面の課題」をそれぞれ表している。
なおグラフ左側のテキスト部分については、レイアウトの都合で意訳・簡略化させていただいた(注3)。

今回の結果(2020年版)だけを見るといずれも僅差だが、過去2回分からの変化の仕方がそれぞれ異なっていることがわかる。規制の変更や監視の強化、および経済状況に関しては、過去3年の間に認識が徐々に高まっているが、人材不足やに関する課題や、既存の業務の仕組みやITシステムの古さに関する課題は既に 2019年版の時点で既に懸念が高まっており、直近1年の間ではさほど変化していない。
これらの中で筆者が特に興味深いと思ったのは、4位となっている、既存の業務の仕組みやITシステムの古さに関する課題に対する認識である(注4)。これは原文では「最初からデジタル技術に基づいて生まれた競合相手や、運営コストが低い競合相手(new competitors that are “born digital” and with a low cost base for their operations)」に対して、自社の既存の業務の仕組みやITシステムでは品質やスピード、コストなどの面で対抗できなくなるリスクを問う内容となっており、2018年版では10位、2019 年版では1位だったとの事である。以前に本連載で紹介させていただいた「破壊的テクノロジー」(Disruptive Technologies)に対する課題認識と通じるものがあると考えられる(注5)。
図2はこれらに続く7~10位までの平均値である。なお10位となっているデジタル技術への適応に関する課題は、今回の調査から新たに追加された選択肢である。

本報告書ではさらに、これらのデータを組織規模別、回答者の役職別、業種別、地域別、株式公開企業/非公開企業/非営利組織別に詳細分析したうえで、考察および提言が行われてる。ERM に関して俯瞰的に検討され、人材や組織文化に関する課題と、テクノロジーやイノベーションに関する課題との間の相互関連性に着目されていて大変興味深い内容となっているので、特に経営者の皆様にとって新たな示唆を与えてくれる報告書となるであろう。
■ 報告書本文の入手先(PDF113ページ/約4MB)
https://erm.ncsu.edu/az/erm/i/chan/library/2020-erm-execs-top-risks-report.pdf
注1) 「C-suite」とは CEO(Chief Executive Officer:最高経営責任者)、CFO(Chief Financial Officer:最高財務責任者)などといったように、役職名に「Chief」が付く上級幹部役員の総称である。
注2)2018年に発表された、2019年に懸念されるリスクに関する調査結果が「2019 年版」、同様に2017年に発表された調査結果が「2018 年版」となる。
注3) 例えばトップとなっている「規制の変更や監視の強化による影響」は、原文では「Regulatory changes and scrutiny may heighten, noticeably affecting the manner in which our products or services will be produced or delivered」となっており、原文に忠実に翻訳すると「規制の変更や、監視が恐らく強化されることによって、製品やサービスを制作(生産)し提供する方法が著しく影響を受ける」となる。
注4) 原文では次のように記述されている。
「Our existing operations, legacy IT infrastructure, and insufficient embrace of digital thinking and capabilities may not meet performance expectations related to quality, time to market, cost and innovation as well as our competitors, especially new competitors that are “born digital” and with a low cost base for their operations, or established competitors with superior operations」
注5) 2019年10月8日付『第78回:BCM関係者は「破壊的テクノロジー」とどのように付き合っていくのか - BCI / Disruptive Technologies 2019 - Impacts and opportunities for resilience』(https://www.risktaisaku.com/articles/-/20440)
(了)
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