2020/01/14
海外のレジリエンス調査研究ナナメ読み!
高優先度の非常事態が過去11年間で最多
アンケートの集計結果は図2のリスクアセスメント・マトリックスで整理され、Tier I~IIIの3段階で優先順位が付けられている。

このような調査・分析の結果、過去11年間で最多となる13の非常事態がTier Iに分類されたという。図2のリスクアセスメント・マトリックスに Tier Iのマスは3つあるが、影響の大きさと可能性との両方が「High(高い)」に該当するものはない。残り2つのマスに含まれる非常事態は次のとおりである(注3)。
[影響の大きさ:High(高)/可能性:Moderate(中)]
・米国の重要なインフラ(選挙制度を含む)に対する破壊的なサイバー攻撃
・米国もしくは同盟国に対する大規模テロ
・地域紛争に関わったイランと、米国もしくは同盟国との間の武力衝突
・非核化交渉の決裂や長距離ミサイル実験の再開による、朝鮮半島における深刻な危機
・中国と東南アジア諸国(ブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、台湾、ベトナム)との間の紛争によって発生する、南シナ海における武力衝突、
・ウクライナ東部などの紛争地域における戦闘激化による、ロシアとウクライナとの間の深刻な危機
・エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラスにおける経済および治安の悪化による、この地域からの移住の増加
[影響の大きさ:Moderate(中)/可能性:High(高)]
・メキシコにおける、組織犯罪による暴力の激化
・宗派間の緊張と経済悪化による、イラクにおける政情の不安定さの悪化
・トルコおよびシリアにおける、トルコと様々なクルド人武装グループとの間での暴力の激化
・シリア政府による暴力的な統制による、民間人の犠牲者の増加と、紛争関係者間の緊張の高まり
・アフガニスタンにおける暴力の激化と政情不安による、タリバンの反政府活動の進行と、政府崩壊の可能性
・ベネズエラにおける経済危機および政情不安の悪化と、これらによる暴動や難民流出の増加
これまで本連載で紹介してきた様々な調査報告書において、外国のBCM関係者の間でサイバー攻撃が最も懸念されていることは再三お伝えしてきたが(注4)、外交問題が主眼の報告書においても、重要なインフラ対するサイバー攻撃が最初に挙げられているという点は、注目に値すると言えよう。ただし「重要なインフラ」に選挙制度が含まれているのは、従来紹介してきた各報告書にはなかった視点である(注5)。
また、本報告書はあくまでも米国の視点からまとめられたものであることにも注意が必要である。例えばエルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラスにおける経済および治安の悪化は、地理的に近い米国にとっては影響が大きいが、日本に対する影響はかなり限定的であろう。
したがって我が国としては、本報告書と同じような視点で日本に対する影響が大きいと思われる非常事態を分析する必要があり、また企業としてもそのような情勢を視野に入れた上で、自社の従業員の安全やビジネスに対するリスクと、それを見越した対策を考えていくことが求められるのではないだろうか。
■ 報告書本文の入手先(PDF 12ページ/約 15.4 MB)
https://www.cfr.org/report/conflicts-watch-2020
注1) 原文では「contingency」と表現されているものを、本稿では便宜上「非常事態」と表記させていただいた。「contingency」という単語が様々な事象を含むため、前後の文脈によっては「非常事態」という訳語がそぐわない箇所もあるが、ご了承いただきたい。
注2) 今回の調査対象とするcontingency群を作る際には、様々なソーシャルメディアから情報を集めた上で、CFRの専門家の助言を受けて、今後12 ヶ月の間に起こり得るもので、かつ米国関係にとって有害となり得るものという観点で30のcontingencyに絞り込むというプロセスが実施されている。
注3) 筆者は外交問題の専門家ではないので、以下には不正確な表現が含まれている可能性があるがご容赦いただきたい。詳しく内容を知りたい方はぜひ報告書本文をお読みいただければと思う。
注4) 例えば次の記事など(2019年3月12日掲載):
第67回:世界のBCM関係者の懸念は今年もまたサイバー攻撃
BCI / Horizon Scan Report 2019
https://www.risktaisaku.com/articles/-/15890
注5) 原文では「including its electoral systems」と明記されている。余談だが筆者は「electoral」を「electrical」と見間違えて「電力システム」と早合点しそうになった。
(了)
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