重点は水際対策から国内の診療体制に移行

Q6 グローバル化の進展にともない、世界中で人の動きが活発化しています。感染症対策にも変化が求められるのですか?

そのとおりで、感染症に対する注意の仕方は大きく変わってきています。17年前のSARS流行のときと比べてもだいぶ違う。この20年間だけで、中国から日本に入ってくる人は20倍に増えていますから。

逆にいえば、人の流れを止めるという方法で感染の拡大を防ぐことはできるわけです。アメリカをはじめイギリス、フランスなどが、いまその方法を取っているわけですね。

では日本はどうかというと、中国との関係を考えれば、人の流れを完全に止めることは難しいと思う。もしアメリカ並みのことを行えば、かなりの経済損失を覚悟しなければなりません。もちろん大事なのは国民の生命ですから、SARS並みの致死率であればまた話は違います。しかしいまの致死率であれば、人の動きを完全に制限する必要はないと思います。

Q7 では、どのようにして感染拡大を防ぐのですか?

水際対策をメインとする第1フェーズから第2フェーズへの移行期(写真:写真AC)

海外からの感染拡大を抑制するうえで、我々は常に2つのフェーズを考えます。第一のフェーズは、要するにいまの状況ですが、水際対策でできるだけ国内に入ってくる感染者を少なくする。人の流れを止めないまでも、入ってくる感染者を極力減らすということです。

これについては「ザルだ」という批判もあります。しかし、このフェーズで何を目指しているのかというと、次のフェーズでやるべきことの準備なのです。すなわち、国内で流行が広がり始めた際、適切に対応できる体制を整えることです。

鼻水や咳を発症している人が実は新型コロナウイルスの感染者だったという状況になってくれば、それが次のフェーズへの転換点です。いまは誰からうつったのかがわかりますが、次のフェーズではわからなくなる。こうなると、国内の医療機関が重症者に対していかに対応するかがポイントになってきます。

新型インフルエンザのときもそうでしたが、最初に水際対策をして流行の時期を遅らせ、その間に次のフェーズへの準備をする。いまが、まさにその時期です。そして、感染経路をはっきり追えなくなってきているようなら、厚生労働省はフェーズの移行を宣言するべきです。

高齢者や慢性疾患の患者を守ることが重要

Q8 第2フェーズに向けた準備を早急に進める必要があると?

写真を拡大 自治体に医療体制の整備を要請する厚生労働省の通知

もちろん、水際対策は続けていく必要があります。しかし、いま何よりも大事なのは、重症化している人を国内の医療機関で適切に診療できるよう準備することです。

国は「帰国者・接触者外来」と、そこにつなげる相談センターの設置を都道府県に要請していますが、これを早急に整備し、いつでも次のフェーズに入れる体制にしておく必要があります。

現時点で新型コロナウイルス肺炎の患者は、国内に約400カ所ある指定医療機関で診療を受けることになっています。これに対し「帰国者・接触者外来」は、どこかは決まっていませんが(※都道府県によってはすでに整備している)、2次医療圏に一つです。今後は診療できるところが増えてくるでしょう。

医療体制の整備にあたっては高齢者や慢性疾患を持つ人の安全確保が重要(写真:写真AC)

ここで注意すべきは、高齢者や慢性疾患を持った人を守ることです。新型コロナウイルスの致死率は高くないといいましたが、高齢者や慢性疾患を持った人は重症化しやすい。「帰国者・接触者外来」を置く病院は、すでにそうした患者を多く抱えています。受診動線を変えることもちろん、そうした患者の診療を周囲の医療機関がサポートするやり方も必要かもしれません。