2017/03/10
アウトドア防災ガイド あんどうりすの『防災・減災りす便り』
<ケース1>「避難時、ピンクなど女性らしい色の服を着たり、身につけていると襲われる。地味で男性っぽい格好で避難しなさい」
確かに!と思った方も多いかもしれません。熊本地震でたくさんシェアされていた情報ですから。しかし、これは拡散してはいけない情報です。なぜって、まずはこちらのページをご覧ください。
「強姦(レイプ)神話とは」
http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/p787148.html
強姦(レイプ)神話とは
「強姦(レイプ)にまつわる話として、その真偽に関わりなく、広く一般に信じられていることがあります。この神話は、知らず知らずのうちに意識の中に刷り込まれ、その結果、被害者が自分自身を責めてしまうこともありますが、被害者には何の落ち度もありません。 被害の責任は加害者にあります。」
(神話2)強姦は、女性側の挑発的な服装や行動が誘因となる
→実際には、被害女性の多くが特別に挑発的な服装や行動はしていません。それどころか、むしろ加害者は地味な服装の女性を「おとなしそうで、訴えないだろう」と見て、狙うことがあります。
おわかりでしょうか?<ケース1>は、レイプ神話の、いまでは否定されている「被害者の落ち度論」というものなのです。「そんなはずはない」とどうしても思いたい方は、公的機関の発する情報を片っ端から確認してみてほしいと思います。
http://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/police14/higai-genjyou.html#gokai
性犯罪に関する迷信の例
「被害者が加害者を挑発した結果,性犯罪が起きる」
「薄着やミニスカートなどの挑発的な服装を見て,急に性的欲求が高まった男性が性犯罪を起こすのだから,そのような服装をしている女性は被害にあっても仕方がない」と思っている人がいるのではないでしょうか。しかし,性犯罪は一部または全部が計画的に行われていることが多いようです。それには被害者の服装や容姿は関係なく,「だれでも良かった」というケースも多数含まれています。もちろん,パンツスーツや,ジーンズに丈の長いコートを着ていても被害にあうことがあります。
「美しく若い女性が性犯罪の被害にあう」
被害者の年齢は幼児から80代まで,広範囲にわたっています。また,被害者の服装や外見,職業もバラバラです。幼児の場合は女児のみではなく,男児が被害にあって警察に届け出られるケースもあります。成人男性が性犯罪の被害を受けた場合は,だれかに相談したり警察に届け出ることもためらわれ,女性より深刻な状況に陥っていることも考えられます。
「夜,一人歩きしなければ性犯罪にはあわない」
警察へ被害届が出された内容から,夜,一人歩きの女性が被害にあうことが多いのは事実ですが,午前中や夕方にも,性犯罪は起きています。自宅やいつもよく行く場所でも事件は発生しており,夜と屋外だけが危険なのではありません。
「性犯罪は見知らぬ男性から受ける」
顔見知りからの被害は知人にも相談しにくいため,警察へ届け出ることはもっと難しいと考えられますので実態は把握できておりませんが,被害全体に占める割合は高いと考えられています。警察への届け出をされた事件にも,知人からの被害が多数あります。
「いやだったら,被害者は最後まで抵抗するはずだ」
被害者は恐怖で体が硬直したり,声も出なかったりして抵抗できなくなることがありますが,加害者を受け入れる気持ちがあったわけではありません。
「性犯罪は大都市でしか起こらない」
事件は地域に関係なくどこでも発生します。地方では周囲の目を気にして警察に届け出られない場合も少なくないと考えられていますが,実態は不明です。
「性的欲求を爆発させた男性が衝動的に性犯罪を行う」
性犯罪は計画的に行われていることが多く,また,周りに人がいる時やだれかに見つかりそうな場所では行われていないことからも,コントロールできない行動ではないことが判ります。
「性生活に不満を持っている異常な男だけが性犯罪の加害者となる」
加害者は見るからに異常な男性だろう思われがちですが,社会的に地位があり,信頼されている人物であることも少なくないのです。もちろん,妻や子,恋人と,家庭でも職場でも人と変わらない生活を送っている加害者もまれではありません。
<ケース1>の情報はことごとく否定されているのがわかるでしょう。男性でも被害にあっていますし、被害者の服装や持ち物と被害のあいやすさの間には因果関係がないという事がわかっています。それだけなく、その情報発信が被害者を苦しめていることについても言及されています。
■広島県警察ホームページ「犯罪被害者の現状」「性犯罪に関する誤解」
http://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/police14/higai-genjyou.html#gokai
残念ながら私自身も含め、人の認知は偏る可能性があります。例えばレイプと言われて、あなたが思い浮かべるものは何でしょう?誰かが誰かを襲っているシーンでしょうか?でも性犯罪の被害に遭った方は、そういうシーンを思い浮かべません。恐怖に体が固まり、加害者が実際にとった行動を思い浮かべます。誰かを襲っているシーンを思い浮かべた方は、加害者視点の情報しか入っていないのかもしれません。
(山本潤著/朝日新聞出版)
性暴力の被害者が受ける心の傷やトラウマなどについて真摯に学びたい方におすすめしたい本がこちらです。
山本潤さん著「13歳『私』をなくした私」。帯にはこうあります。「アルコール依存、強迫症状、制御できない性行動・・“あの日”から今日まで、私に起きたことのすべて。加害者は父」。
被害を減らすためによかれと思って拡散した情報が、被害にあった人の方を追い詰め、通報をためらわせ、結果として加害者のためになるとしたら残念すぎます。
性暴力情報については、平時も災害時も、自衛の情報が発信されることが多いです。すぐに自分ひとりでできる事という面もあるからでしょう。
しかし、「自衛できないほうが悪い」という「被害者の落ち度論」に転嫁されやすい性質を理解してほしいのです。平時も災害時も悪いのは被害者ではなく、加害者です。「加害できないようにするための情報」を意識して発信していただければと思います。
もしも過去に、<ケース1>の情報を拡散、発信してしまったのであれば、今ならまだ間に合います。次の災害が起こる前にこっそりでいいので削除してください。そうでないと、次の災害時にもあなたの意思に関わらずそれは拡散され続け、被害者を苦しめます。
<ケース1>は、東日本大震災で得た教訓にも反します。地域によっては、津波到着時間が数分しかないところもあるのですから、着のみ着のまま逃げなければいけません。例え水着で逃げた方がいても、その人を襲うのは加害者が悪いのであって、被害者に落ち度はありません。津波の際、着替えなければと思わせるという意味からも削除しておいてほしいと願います。
http://www.bousai.go.jp/taisaku/hinanjo/pdf/1605hinanjo_guideline.pdf
また、性暴力の起こりにくい避難所作りのために、平時から避難所のあり方に意識を向けて発信していただきたいです♪内閣府避難所運営ガイドラインにもチェックリストが入っています。
安心して入れるトイレや授乳場所、仕切りの確保、明るさの保たれた場所つくり、そして相談しやすい女性リーダーがいる避難所つくり。それらは「加害できないようにするため」の情報です。
アウトドア防災ガイド あんどうりすの『防災・減災りす便り』の他の記事
おすすめ記事
-
競争と協業が同居するサプライチェーンリスクの適切な分配が全体の成長につながる
予期せぬ事態に備えた、サプライチェーン全体のリスクマネジメントが不可欠となっている。深刻な被害を与えるのは、地震や水害のような自然災害に限ったことではない。パンデミックやサイバー攻撃、そして国際政治の緊張もまた、物流の停滞や原材料不足を引き起こし、サプライチェーンに大きく影響する。名古屋市立大学教授の下野由貴氏によれば、協業によるサプライチェーン全体でのリスク分散が、各企業の成長につながるという。サプライチェーンにおけるリスクマネジメントはどうあるべきかを下野氏に聞いた。
2025/12/04
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/12/02
-
-
-
-
-
-
目指すゴールは防災デフォルトの社会
人口減少や少子高齢化で自治体の防災力が減衰、これを補うノウハウや技術に注目が集まっています。が、ソリューションこそ豊富になるも、実装は遅々として進みません。この課題に向き合うべく、NTT 東日本は今年4月、新たに「防災研究所」を設置しました。目指すゴールは防災を標準化した社会です。
2025/11/21
-
サプライチェーン強化による代替戦略への挑戦
包装機材や関連システム機器、プラントなどの製造・販売を手掛けるPACRAFT 株式会社(本社:東京、主要工場:山口県岩国市)は、代替生産などの手法により、災害などの有事の際にも主要事業を継続できる体制を構築している。同社が開発・製造するほとんどの製品はオーダーメイド。同一製品を大量生産する工場とは違い、職人が部品を一から組み立てるという同社事業の特徴を生かし、工場が被災した際には、協力会社に生産を一部移すほか、必要な従業員を代替生産拠点に移して、製造を続けられる体制を構築している。
2025/11/20
-
企業存続のための経済安全保障
世界情勢の変動や地政学リスクの上昇を受け、企業の経済安全保障への関心が急速に高まっている。グローバルな環境での競争優位性を確保するため、重要技術やサプライチェーンの管理が企業存続の鍵となる。各社でリスクマネジメント強化や体制整備が進むが、取り組みは緒に就いたばかり。日本企業はどのように経済安全保障にアプローチすればいいのか。日本企業で初めて、三菱電機に設置された専門部署である経済安全保障統括室の室長を経験し、現在は、電通総研経済安全保障研究センターで副センター長を務める伊藤隆氏に聞いた。
2025/11/17







※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方