<ケース1>「避難時、ピンクなど女性らしい色の服を着たり、身につけていると襲われる。地味で男性っぽい格好で避難しなさい」

確かに!と思った方も多いかもしれません。熊本地震でたくさんシェアされていた情報ですから。しかし、これは拡散してはいけない情報です。なぜって、まずはこちらのページをご覧ください。

 
■神奈川県ホームページ安全防災局安全防災部
「強姦(レイプ)神話とは」
http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/p787148.html

強姦(レイプ)神話とは
「強姦(レイプ)にまつわる話として、その真偽に関わりなく、広く一般に信じられていることがあります。この神話は、知らず知らずのうちに意識の中に刷り込まれ、その結果、被害者が自分自身を責めてしまうこともありますが、被害者には何の落ち度もありません。
被害の責任は加害者にあります。」

(神話2)強姦は、女性側の挑発的な服装や行動が誘因となる
→実際には、被害女性の多くが特別に挑発的な服装や行動はしていません。それどころか、むしろ加害者は地味な服装の女性を「おとなしそうで、訴えないだろう」と見て、狙うことがあります。


おわかりでしょうか?<ケース1>は、レイプ神話の、いまでは否定されている「被害者の落ち度論」というものなのです。「そんなはずはない」とどうしても思いたい方は、公的機関の発する情報を片っ端から確認してみてほしいと思います。

■広島県警察ホームページ「犯罪被害者の現状」
http://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/police14/higai-genjyou.html#gokai

性犯罪に関する迷信の例

「被害者が加害者を挑発した結果,性犯罪が起きる」

「薄着やミニスカートなどの挑発的な服装を見て,急に性的欲求が高まった男性が性犯罪を起こすのだから,そのような服装をしている女性は被害にあっても仕方がない」と思っている人がいるのではないでしょうか。しかし,性犯罪は一部または全部が計画的に行われていることが多いようです。それには被害者の服装や容姿は関係なく,「だれでも良かった」というケースも多数含まれています。もちろん,パンツスーツや,ジーンズに丈の長いコートを着ていても被害にあうことがあります。

「美しく若い女性が性犯罪の被害にあう」

被害者の年齢は幼児から80代まで,広範囲にわたっています。また,被害者の服装や外見,職業もバラバラです。幼児の場合は女児のみではなく,男児が被害にあって警察に届け出られるケースもあります。成人男性が性犯罪の被害を受けた場合は,だれかに相談したり警察に届け出ることもためらわれ,女性より深刻な状況に陥っていることも考えられます。

「夜,一人歩きしなければ性犯罪にはあわない


警察へ被害届が出された内容から,夜,一人歩きの女性が被害にあうことが多いのは事実ですが,午前中や夕方にも,性犯罪は起きています。自宅やいつもよく行く場所でも事件は発生しており,夜と屋外だけが危険なのではありません。

「性犯罪は見知らぬ男性から受ける」


顔見知りからの被害は知人にも相談しにくいため,警察へ届け出ることはもっと難しいと考えられますので実態は把握できておりませんが,被害全体に占める割合は高いと考えられています。警察への届け出をされた事件にも,知人からの被害が多数あります。

「いやだったら,被害者は最後まで抵抗するはずだ」


被害者は恐怖で体が硬直したり,声も出なかったりして抵抗できなくなることがありますが,加害者を受け入れる気持ちがあったわけではありません。

「性犯罪は大都市でしか起こらない」


事件は地域に関係なくどこでも発生します。地方では周囲の目を気にして警察に届け出られない場合も少なくないと考えられていますが,実態は不明です。

「性的欲求を爆発させた男性が衝動的に性犯罪を行う」


性犯罪は計画的に行われていることが多く,また,周りに人がいる時やだれかに見つかりそうな場所では行われていないことからも,コントロールできない行動ではないことが判ります。

「性生活に不満を持っている異常な男だけが性犯罪の加害者となる」


加害者は見るからに異常な男性だろう思われがちですが,社会的に地位があり,信頼されている人物であることも少なくないのです。もちろん,妻や子,恋人と,家庭でも職場でも人と変わらない生活を送っている加害者もまれではありません。


<ケース1>の情報はことごとく否定されているのがわかるでしょう。男性でも被害にあっていますし、被害者の服装や持ち物と被害のあいやすさの間には因果関係がないという事がわかっています。それだけなく、その情報発信が被害者を苦しめていることについても言及されています。

「さらに,性犯罪に関しては,世間に広まっている迷信のようなものがあります。この迷信のために,被害者にもそれなりの責任があると見なされたり,周りの人が被害者を責める言動をしてしまう下地となっています。また,被害者は自分が悪かったのだと考えたり,だれかに相談しても自分が責められるのではないかと思って,人に知られないように一人で悩みを抱えたままとなっていることが多いようです。」

■広島県警察ホームページ「犯罪被害者の現状」「性犯罪に関する誤解」
http://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/police14/higai-genjyou.html#gokai


残念ながら私自身も含め、人の認知は偏る可能性があります。例えばレイプと言われて、あなたが思い浮かべるものは何でしょう?誰かが誰かを襲っているシーンでしょうか?でも性犯罪の被害に遭った方は、そういうシーンを思い浮かべません。恐怖に体が固まり、加害者が実際にとった行動を思い浮かべます。誰かを襲っているシーンを思い浮かべた方は、加害者視点の情報しか入っていないのかもしれません。

「13歳『私』をなくした私」
(山本潤著/朝日新聞出版)

性暴力の被害者が受ける心の傷やトラウマなどについて真摯に学びたい方におすすめしたい本がこちらです。

山本潤さん著「13歳『私』をなくした私」。帯にはこうあります。「アルコール依存、強迫症状、制御できない性行動・・“あの日”から今日まで、私に起きたことのすべて。加害者は父」。

被害を減らすためによかれと思って拡散した情報が、被害にあった人の方を追い詰め、通報をためらわせ、結果として加害者のためになるとしたら残念すぎます。

性暴力情報については、平時も災害時も、自衛の情報が発信されることが多いです。すぐに自分ひとりでできる事という面もあるからでしょう。

しかし、「自衛できないほうが悪い」という「被害者の落ち度論」に転嫁されやすい性質を理解してほしいのです。平時も災害時も悪いのは被害者ではなく、加害者です。「加害できないようにするための情報」を意識して発信していただければと思います。

もしも過去に、<ケース1>の情報を拡散、発信してしまったのであれば、今ならまだ間に合います。次の災害が起こる前にこっそりでいいので削除してください。そうでないと、次の災害時にもあなたの意思に関わらずそれは拡散され続け、被害者を苦しめます。

<ケース1>は、東日本大震災で得た教訓にも反します。地域によっては、津波到着時間が数分しかないところもあるのですから、着のみ着のまま逃げなければいけません。例え水着で逃げた方がいても、その人を襲うのは加害者が悪いのであって、被害者に落ち度はありません。津波の際、着替えなければと思わせるという意味からも削除しておいてほしいと願います。
 

内閣府避難所運営ガイドライン(平成28年4月)P52から引用
http://www.bousai.go.jp/taisaku/hinanjo/pdf/1605hinanjo_guideline.pdf

また、性暴力の起こりにくい避難所作りのために、平時から避難所のあり方に意識を向けて発信していただきたいです♪内閣府避難所運営ガイドラインにもチェックリストが入っています。

安心して入れるトイレや授乳場所、仕切りの確保、明るさの保たれた場所つくり、そして相談しやすい女性リーダーがいる避難所つくり。それらは「加害できないようにするため」の情報です。