2012/11/25
誌面情報 vol34
各国政府で積極支援
海外においても中小企業へのBCPの普及は大きな課題となっている。各国ではBCP策定のための教育プログラム開発や策定企業への税制優遇のインセンティブなど支援策を充実させてきている。
■米国:中小企業に向けたReady Business
アメリカでは、2001年の同時多発テロを受け、公的機関と民間企業が一体となって災害対応能力を向上させていく必要があるとし、DHS(国土安全保障省)の主導で施策が推進されている。
DHSでは2004年9月に、中小企業の緊急事態対応計画を促進することを目的とした“Ready Business”プログラムを開始した。同プログラムのウェブサイトでは、米国防火協会が策定する規格NFPA1600に基づいて、自然災害や人的災害などを想定した全脅威(オール・ハザード)のBCPの策定に必要な情報を紹介している。
具体的には、プログラムマネジメント、計画の策定、実行、訓練・演習、改善などの項目別に、それぞれ詳細な解説が書かれており、BCPを作成するテンプレートなどもダウンロードできる(図参照)。
ちなみにReady Businessの前身となるプログラムに“Ready”と呼ばれるものがあるが、これは自然災害や人災を含む非常事態に対応できるようにアメリカ国民を教育し、事前準備や備蓄などを啓蒙することを目的とした2003年2月から始まった国家公共サービス広告(PSA)キャンペーン。Ready Businessプログラムは、Readyの好評を受けて開始されたものだ。
このほかにも、中小企業の緊急事態対応プログラムの支援として、米国赤十字社が実施している“ReadyRating”がある。ReadyBusiness同様、ウェブ上で緊急時における企業の備えや対応についての有益な情報を提供するのに加え、同プログラムの無料のメンバーシップになることで、赤十字が運営する防災製品を扱うオンラインストアで、緊急時に必要な製品を割引価格で購入できるなどのサービスを提供している。
■英国:内閣府が協力した「サルでもわかる」マニュアル本
英国においても日本と同様、約90%の企業を中小企業が占めており、国全体のレジリエンシー(被災などからの再生力)を高めるためにも中小企業へのBCP普及が大きな課題となっている。
2004年に策定された民間緊急事態法(CCA:Civil Contingency Act)では、主に公的機関の役割が示されており、この法律に基づき、国や地方の公的機関を中心に事業継続への取り組みが行われている。一方、中小企業へのBCP普及は地方自治体の役割となるが、内閣府の緊急事態事務局(CCS:Civil Contingencies Secretariat)が中心となって、まずは地方自治体職員の教育を行い、その職員らが、地方経済において影響力が大きい中小企業などを中心に、BCPの策定を呼びかけているようである。ただ、これまでは企業向けの冊子の作成や配布程度に留まり、長年にわたって民間企業におけるBCPの策定率が伸び悩んでいたことから、最近になってCCAの改善が行われているとの報告もある。
もう1つ、英国政府主導の中小企業のBCP策定の主な支援策の1つとして、国全体のレジリエンシーの向上を目的とした「緊急事態計画カレッジプログラム:Emergency Planning College」がある。元々、自治体担当者向けに行われていたものだが、2010年より民間企業の担当者の受講が可能となり、2∼3日程度の短期講義やセミナー、ワークショップを開催。毎年6000∼7000人近くが同プログラムを受講している。一部の大学では、同カレッジの修了に対して大学の単位を認めている。
また、今年11月には、内閣府のCCSのメンバーと、ウェールズやスコットランドなど各地方国政府のBCP担当者が協力し、国内の中小企業へのBCP普及を目的に、事業継続についての初心者向けのガイドブックを、アメリカの実用書として有名なForDummies(「サルでもわかる」)シリーズとして出版した。同シリーズは、全世界で1600タイトル・約2億冊が出版される世界で最も読まれるマニュアル本の1つで、BCPにこれまで関心のなかった中小企業のオーナーやBCPに費用をかけたくないという人を対象に、わかりやすく、できるだけお金をかけなくても取り組めるよう、具体的なBCPの策定方法を紹介している。
■韓国:法律でインセンティブを導入
一方、隣国の韓国では、2001∼2005年にかけて、自然災害の影響により被害を受けた多くの中小企業が倒産した。特に、2002年から2004年にかけては大規模な台風による水害が多く、工業団地が浸水したことで、多くの企業が廃業した。これを受け、韓国政府は、中小企業が被害を軽減するための活動を支援する必要性を認識し、災害軽減のための企業の自立活動支援に関する法律を制定した。平成22年3月に東京海上日動リスクコンサルティングが内閣府からの受託事業としてまとめた「諸外国におけるBCPの普及策の状況に関する調査報告書」によると、この法律は、企業にとって強制的なものではないが、資金力の低い中小企業の対策を促すため、税制の優遇や入札加点制度など多数のインセンティブ制度を導入している。日本でも関東地方整備局はじめ、四国、近畿、中国で、地域建設業の事業継続力を認定し、総合評価入札における加点対象とする動きが進められているが、こうした動きが中小企業全体のBCP底上げにつながるのかを占う意味でも、韓国の今後の動向が注目される。
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