「減災への取り組み~荒川下流域のタイムライン~」
氾濫予定時刻から逆算した行動計画

高崎 哲郎
1948年、栃木県生まれ、NHK政治記者などを経て帝京大学教授(マスコミ論、時事英語)となる。この間、自然災害(水害・土石流・津波など)のノンフィクションや人物評伝等を刊行、著作数は30冊にのぼる。うち3冊が英訳された。東工大、東北大などの非常勤講師を務め、明治期以降の優れた土木技師の人生哲学を講義し、各地で講演を行う。現在は著述に専念。
2017/04/10
安心、それが最大の敵だ
高崎 哲郎
1948年、栃木県生まれ、NHK政治記者などを経て帝京大学教授(マスコミ論、時事英語)となる。この間、自然災害(水害・土石流・津波など)のノンフィクションや人物評伝等を刊行、著作数は30冊にのぼる。うち3冊が英訳された。東工大、東北大などの非常勤講師を務め、明治期以降の優れた土木技師の人生哲学を講義し、各地で講演を行う。現在は著述に専念。
タイムラインは自然災害に対処する「人類の知恵」である。災害が想定される数日前から、発生やその後の対応まで、関係機関が災害時に何を優先して取り組むかを時系列的に定めた行動計画表のことである。被災住民、自治体、国、自治会、消防団、鉄道会社、電力会社、教育機関などのとるべき行動が一覧票にまとめてあり、各組織の動きや連携関係が一覧できる。
国土交通省荒川下流河川事務所は、同省の河川事務所としては唯一東京都内に設置されている。荒川の下流部が破堤すれば東京下町の水没は免れず首都機能は死に瀕する。荒川の洪水対策をいわば一手に引き受けているのが同事務所である。同事務所は2014年、全国に先駆け<優先事業>として洪水時におけるタイムラインの検討を始めた。2015 年5月には試行案として試験運用が開始された。荒川下流域におけるタイムラインへの取り組みを検証してみよう。
現在では試行案から試行版へと実践的改訂を行っている。同事務所によれば、このタイムラインは「台風襲来や豪雨による水災害に対応する防災行動、とりわけ標準的に行われる全体及び各機関の防災行動を、行動や準備に要する時間も考慮して平常時から時系列的に整理しておく。そのことにより時間的制約等が厳しい災害発生時における防災行動を効果的かつ効率的に行うことを目的とした計画」である。2014年8月、「荒川下流域を対象としたタイムライン(事前防災行動計画)検討会」を設置し、荒川下流右岸(東京都側)の東京都北区・板橋区・足立区内をモデル地域として、参加機関(20機関、37部局)が検討を進めてきた。
タイムラインは、終戦直後に関東地方を襲ったカスリーン台風の雨量を確率規模200分の1としている。大豪雨によってもたらされる荒川右岸の決壊による水災害を対象に、災害状況をシナリオとして、モデル地域にどのような事態が発生するかを国と地元自治体などが共有したうえで、参加機関があらかじめ決めている避難誘導などの防災行動項目を時系列的に整理し取りまとめた。
計画策定の最大の狙いは、大規模洪水により荒川が決壊し広域的に被害が発生する前に、各主体が共同して人的被害ゼロを目指した行動を整理することである。荒川決壊を0時間としてその5日前からの事前防災対応行動のうち「住民避難」「避難行動要支援者」「交通の運行状況」に焦点を合わせた行動と、その行動の主体になるのか、または協力者であるのかについてパッチワーク方式で検討・整理を行った。パッチワーク方式とは地域で最大の課題となる行動から検討に入る方式をいう。優先事項を事前に掲げるのである。
安心、それが最大の敵だの他の記事
おすすめ記事
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/06/05
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方