最終回:偉才・嘉納治五郎の知られざる一面
先進的教育、儒教主義、旧制灘中、サンテル事件

高崎 哲郎
1948年、栃木県生まれ、NHK政治記者などを経て帝京大学教授(マスコミ論、時事英語)となる。この間、自然災害(水害・土石流・津波など)のノンフィクションや人物評伝等を刊行、著作数は30冊にのぼる。うち3冊が英訳された。東工大、東北大などの非常勤講師を務め、明治期以降の優れた土木技師の人生哲学を講義し、各地で講演を行う。現在は著述に専念。
2019/10/28
安心、それが最大の敵だ
高崎 哲郎
1948年、栃木県生まれ、NHK政治記者などを経て帝京大学教授(マスコミ論、時事英語)となる。この間、自然災害(水害・土石流・津波など)のノンフィクションや人物評伝等を刊行、著作数は30冊にのぼる。うち3冊が英訳された。東工大、東北大などの非常勤講師を務め、明治期以降の優れた土木技師の人生哲学を講義し、各地で講演を行う。現在は著述に専念。
NHK大河ドラマ「いだてん」に 触発されて講道館創始者・高等師範学校(現筑波大学)校長嘉納治五郎のエピソードを探してみた。その一部を紹介したい(先の連載記事で嘉納論最終回を約束しておきながら破約になったことをお詫びする)。
19世紀末(明治後期)、ヒューマニズムの実践ともいえる「活動主義」「自然主義」の教育を最も早い時期に、理論体系を伴った形で提唱した教育者の一人が樋口勘次郎(1872~1917)であった。「日本教育史」(山本正身)を参考にする。
樋口は長野県諏訪の出身で、明治28年(1895)に高等師範学校を卒業後、同校付属小学校の訓導(エリート教師)となった。当時、高等師範学校を卒業して小学校の教員になる例はほとんどなかった。旧制中学(現高校)か地方の師範学校(現教育系大学)が主であった。だが、恩師・高等師範校長嘉納治五郎の指示もあってこの人事を快諾した。樋口は23歳の青年教師であったが、校長嘉納の期待に応えて教授法の研究と教科書の改良に打ち込み、その成果を「東京茗渓会雑誌」に発表した。樋口の教育法を象徴するもののひとつが、有名な「飛鳥山遠足」である。
明治29年(1896)11月、樋口は師範付属小学校2年生の生徒37人と上野・飛鳥山間往復約6キロを遠足し、自然や地理、産業や博物などの教材を実施、実物に触れさせることを通じて学習させた。当時遠足は学校行事として一応定着していたが、その意義が教授活動との関連で理解されることは稀(まれ)で、むしろ軍事訓練的色彩を帯びた身体鍛錬の手段とみなされる傾向にあった。それに対して、樋口は遠足に教育指導の一環としての教授活動として方法的意義を与えた。非軍事的指導である。このリベラルな発想に樋口の斬新さがあった。樋口の教授実践の試みは、その著「統合主義新教授法」(1899)に一つの理論体系となって結実される。
樋口の教授論の基調として、子どもの自発活動に大きな価値を認めようとするとともに、教授における「統合」を重視する方針が明確に打ち出されている。飛鳥山遠足の活動が、動物学、植物学、商業、工業、地理、地質、人類学、物理学、詩(文学)、修身、作文などの学びを統合するものであることが強調されている。樋口にとって、子どもは単なる教育の客体ではなく、自らの学習を自主的に推し進める「主体」として理解されていたといってよい。児童の豊かな感受性を涵養する樋口の先見性に富んだ教育方針に注目し、大いに支えたのが嘉納であった。
安心、それが最大の敵だの他の記事
おすすめ記事
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/06/05
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方