2017/04/14
熊本地震から1年

私は熊本地震が発生する直前にこちらに赴任いたしました。もともと内閣府で防災を担当していたので熊本地震後に現地のインタビューなどを行ったのですが、避難所の問題、備蓄の問題、耐震化の問題など、阪神・淡路大震災や東日本大震災と同じ問題が繰り返されていると感じました。そしてインタビューの中で「東日本大震災などを見て防災は大事だと思っていたが、まさか熊本に来るとは思わなかった」と多くの人が話していたのが印象的でした。
熊本地震の特徴
熊本地震は、直接死より間接死が多いのが一番の特徴です。特に、車中泊を重ねてエコノミー症候群で亡くなった方や医療機関が被災し、転院がきっかけとなって死亡した方も多いといわれています。発災直後の昨年の5月に開催した学会でもそのような指摘がありましたが、とても残念な結果になってしまいました。
■「震災関連死38人が車中泊 18人は転院後 熊本地震1年」(2017年4月6日付 西日本新聞)
https://www.nishinippon.co.jp/nnp/national/article/319691
また避難所の調査を行っていると、もちろん子どもたちの自発的な素晴らしい活動も多く聞きましたが、最も多かったのは「発災した後、もっとうまくやれたのではないか」という住民たちの話でした。避難所の運営や備蓄、支援物資の配布など、もっと事前に計画を作って訓練をしていれば、もっとスムーズにいったのではないかということです。これは今後の大きな課題として残っています。

自助・共助の重要性
地区防災計画となんでしょうか。話は1995年までさかのぼります。6400人以上の死者・行方不明者を出した阪神・淡路大震災では、地震によって倒壊した建物から救出された人の約8割が、家族や近所の住民によって救出されました。消防・警察・自衛隊によって救出された人は2割しかいなかったのです。これは災害時の「公助の限界」と呼ばれています。
東日本大震災では、津波で流されて亡くなった人が多かったため「誰に救出してもらったか」という統計はありませんが、岩手県大槌町のように町長をはじめとして多くの幹部職員が津波で死亡するなど行政も大きな被害を受けたため、こちらにも「公助の限界」がありました。一方で、阪神・淡路大震災と同じく「自助・共助」の活動に注目が集まりました。日ごろから防災教育を受けていた子どもたちが率先して高台に逃げ、かつ途中で高齢者にも声をかけて一緒に避難することで皆が命をとりとめたという、いわゆる「釜石の奇跡」も自助の取り組みでありながら、結果として共助にもなった素晴らしい事例です。これらのように災害時には「自助・共助」の取り組みが非常に重要なのです。
地区防災計画の概要
そのような背景のなか、2014年4月に施行されたのが「地区防災計画」です。それまでは、簡単に言うと国の中央防災会議による防災基本計画があり、それを受けて都道府県や市町村が地域防災計画を策定するという、いわばトップダウンの流れでした。地区防災計画はそうではなく、住民や事業者などが自らボトムアップで防災計画を策定するものです。策定された計画は、「計画提案」という形で市町村に提案することができ、それがふさわしいものであれば、市町村の地域防災計画の中に組み入れることができます。
どのようなメリットがあるのかというと、それまで市町村は各地区がどのような防災活動をしているのか、状況を把握できていませんでした。当然ながら地区防災計画を地域防災計画に組み入れるということは、市町村が各地域のミニマムな計画を把握でき、住民たちときめのこまかい連携が可能になるのです。
地区防災計画の特徴は大きく三つあります。一つはいま述べたようにボトムアップで地域が自分たちの計画を策定し、自治体に計画提案できること。もう一つは地区の特性に応じた計画が策定できること。同じ町の中でも海と山や、雪の降るところと降らないところでは当然計画が変わってきます。そのようにきめ細かく地区の特性を反映することができます。最後は、訓練やコミュニティの活動を通じて継続的に実施されること。一度計画を策定してしまうと、それで終わってしまう計画も多いのですが、地区防災計画は、実際に災害が来た時に使える計画、実際に住民が「動ける」計画を目指しています。
ソーシャルキャピタルと地域防災力の活性化
内閣府が発行した「平成26年度版防災白書」では、「防災を起点にした地域コミュニティの活性化」を目指しています。簡単に言えば、防災がうまくいっていれば地域のコミュニティも活性化するということです。防災を起点にしてコミュニティが活性化すれば、自然と治安が良くなり、ビジネスにも貢献し、地区の実情に応じたきめ細かい町づくりにも寄与できる可能性がある。防災により地域コミュニティを活性化し、ソーシャルキャピタルを豊かにしていくことが、今後の地区防災計画の方向性であると考えています。
(了)
熊本地震から1年の他の記事
- 「想定内」の中の「想定外」が問題~熊本地震から感じたこと三題~
- 熊本地震、LINEでの情報収集が4割
- 防災を起点に地域コミュニティを活性化~地区防災計画の概要<熊本地震から1年>
- 関連死166人孤立死14人という数字は非常に重い。熊本地震が投げかけた課題と地区防災計画のあり方
- LINE、熊本市と防災で協定
おすすめ記事
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/06/05
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方