2013/01/25
誌面情報 vol35
日本人の97%は噴火を経験したことが無い

東京大学名誉教授 山梨県環境科学研究所所長 荒牧重雄氏
富士山が直近で噴火する可能性は?
3.11の3日後に、富士山の直下でM6.4の地震があった時には、ドキッとしたが、火山性の地震ではないことが分かった。その後、前兆になるような異常は今のところ、まったく観測されてない。 噴火は予知が可能と思われるかもしれないが、地中の中のマグマの動きを実際に見ているわけでないし、火山の下のマグマだまりに温度計や圧力計を差し込んでいるわけでもないので、本当のことは誰も分からない。
世界的に、現在の技術レベルは、地震波を計ったり、GPSによって地殻変動を観測して、噴火活動を推測しているに過ぎない。
検討会の報告書では、富士山噴火の経済被害が最悪2兆5000億円に上ると試算している。最も懸念していることは?
日本は、金額的な損失と、死者数の2つでしか災害を評価していない。しかし、実際には人々の心理的なショックや、サプライチェーンの途絶、風評による被害など、もっといろいろなパラメーターがあるはずだ。兆5000億2円は、1つの参考として数字を出したに過ぎず、この数字が独り歩きしていることは危惧している。 ただ、経済損失と死者数で言えば、地震災害などに比べてリスクが低いことは確か。昔なら飢餓で大量の人が死ぬということもあったかもしれないが、現社会においては起り得ないだろう。
降灰による首都のリスクは?
個人的には、宝永の噴火規模なら、それほど大騒ぎする話にはならないと思う。飛行機がしばらく飛べなくなるので国際的な損害を与えるが、火砕流が東京まで届くことは、まずありえないし、大混乱に陥るとは考えにくい。
対策をする必要がないということか?
もちろん降灰の除去対策ぐらいは考えておくべきだ。しかし、噴火リスクの可能性について言うなら、世界最大規模の噴火が起きて日本がすっぽりつつまれるぐらいの被害を引き起こすこともあり得るし、逆に、まったく被害がないケースもあり得る。 日本では成人の97%は噴火を経験したことがなく、地震や台風のようにイメージトレーニングができていない。このため、いざという時に、実際に大した問題が起きていなくても、パニックや無用な混乱が生じる恐れはある。被害を少なくするには、火山のことをもっとよく知ることが何より大切だ。
周辺地域への影響は?

宝永と同じタイプの噴火なら、基本的な防災対策さえ整っていれば人的な被害は防げる。他方、火山は、災害をもたらすだけでなく、風光明媚で、温泉はじめ、多くの観光資源をもたらしてくれている。こうした風評による被害も考えなくてはいけない。 大切なことは、災害の脅威を煽るだけでなく、教育とセットで、後世に語り次いでいくような継続的な取り組みだ。リスク対策は、ハードに限定されるものでなく、「知る」ということも重要な要素だと思う。そのことが、将来的な減災につながる。
現在の日本の火山防災体制をどう見ているか?
富士山について言えば、世界的に見ても、ハザードマップ検討委員会の報告書のような、火山災害を総合的に見たものは例がないと自負している。国の主導により実現できたことは確かだが、これで終わってしまっては意味がない。最終的には、自治体担当者が見て分かるように、具体的なリスクシナリオを示して、市町村ごと、担当部ごとに何をすべきか検討できるぐらいまで落とし込んでいく必要がある。 他の火山についても、自治体任せにするのではなく、やはり国の主導のもと取り組める体制を構築すべきだ。同時に火山周辺の各自治体も、専門家を育成していくことが求められる。
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