2020/05/07
気象予報の観点から見た防災のポイント
驚異的な発達

図1に、5月8日から10日までの天気図を改めて示す。8日9時、黄海に見られる中心気圧1010ヘクトパスカルの低気圧は、9日9時には日本海西部へ進み、988ヘクトパスカルまで深まった。中心気圧の24時間降下量は22ヘクトパスカルで、急速な発達といえる。
しかし、それはまだ序の口であった。その12時間後の9日21時には、低気圧は北海道の西岸沖に達し、中心気圧970ヘクトパスカルの強大な低気圧となった。そして北海道を横断し、10日3時には北海道のオホーツク海側へ進み、中心気圧960ヘクトパスカルの猛烈な低気圧に成長したのである。10日9時には、低気圧の中心がエトロフ島付近にまで進み、中心気圧は952ヘクトパスカルまで下がった。
こうして、この低気圧は、9日9時から10日9時にかけて、24時間の中心気圧降下量が36ヘクトパスカルに達する驚異的な発達を見せた。北海道付近を進んだ時のスピードは時速およそ70キロメートルで、低気圧の一般的なスピードの倍の速さがあった。まさに、あっという間に北海道を駆け抜けてしまった。
未明の暴風雨警報
筆者の最初の職場は、網走地方気象台であった。そこで、このメイストームの時にも網走(当時は網走測候所)で勤務していたという大先輩の話を聞くことができた。1954年当時の予報技術は未熟であった。この低気圧がこれほど発達するとの予測は、事前にはなかった。経験したことのない異様な気圧の下がり方に尋常ならぬものを察知した札幌管区気象台の予報官から、真夜中に電信で緊急指令があったという。網走測候所で当直をしていたその大先輩は、受信した指令を構内宿舎にいる所長に伝えた。直ちに所長が現業室に駆け付け、網走地方に暴風雨警報を発表したのは、10日未明の1時55分であった。
筆者が気象大学校を卒業して網走に赴任した当時(1975年)、気象台の庁舎は木造で、屋根裏に倉庫があった。そこには、保存期限の過ぎた資料が捨てられずにたくさん残されていた。ある時筆者は、その中に1954年当時の警報簿があるのを見つけた。網走は災害の少ない地方で、警報が発表されるのは年に幾度もあるわけではない。所長自ら急いで作文したと思われるこの時の警報文の筆跡を見ていたら、当時の危機感が伝わってくる思いがした。
気象予報の観点から見た防災のポイントの他の記事
おすすめ記事
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方