2013/05/25
事例から学ぶ
物流業の川崎陸送(本社:東京都港区)は、東日本大震災を教訓とし、BCP対策を強化している。緊急時用のバッテリーや自家発電装置など、電源のバックアップ体制を整え、各事業所で緊急停電を想定した実動訓練や避難訓練を定期的に実施している。
電源確保が不可欠
川崎陸送は、災害時でも物流を止めないBCP対策の取り組みとして、停電対策に力を入れている。在庫管理から配送まで、ワンストップで物流全般を請け負う同社では、顧客の受発注データや倉庫管理が事業を継続する上で重要となる。有事の際、これらの活動を守るためには、電源の確保が不可欠となることから、電力不足や停電の備えとして、非常用バッテリーや自家発電装置を整え、定期的に停電対策の訓練を実施している。
月2回の始動訓練
最も頻繁に実施している訓練は、非常用発電機の始動訓練となる。毎月2回、第1・第3木曜日に実施している。訓練の目的は、一人でも多くの従業員がいざという時に非常用電源機のエンジンを直ちに動かし、電源確保ができるようにすることだ。
同社では、通信機器の電源確保として、全事業所にフォークリフト用のバッテリーを活用している。事業所に設置されるパソコン、電話、プリンターの電源を確保するため、フォークリフト用のバッテリーから、インバータ、ドラムコードを経由して、通信機器をはじめ各種機器の電源を取る仕組みを整えている。
しかし、バックアップ電源が十分に整備されていても、普段使っていなければ、災害時には慌ててしまい適切な処置をすることは難しい。実際に、東日本大震災でも、発電機や衛星電話など準備していた防災用品が使えなかったという事例は多く聞く。
各事業所の非常用バッテリーの設置場所には、使い方が簡潔にまとめられたラミネート加工のポスターが貼られている。訓練ではこの手順に従って従業員がバッテリーを稼働させる。実際の災害時には文書化したマニュアルを読んでいる時間はないと想定した上での工夫だ。
訓練は、バッテリーの残量をチェックしたり、発電機を稼働させやすくする意味からも重要になる。バッテリーや発電機は、車のエンジンと同様、長い間使用していないとスムーズに稼働しないことがある。特に冬場はその傾向が強くなる。そのため、短い時間でも定期的に電源を入れることでエンジンをならすとしている。
川崎陸送業務部部長代理の上田健一氏は「冬場では、エンジンを回すために、少しアイドリングをするようにしています。こうしたエンジンの特徴やクセが分かったのも訓練の成果です」と話す。
さらに、自社の定期的な訓練とは別に、サプライヤーや発注先の荷主とも不定期ではあるが停電時の対応について接続の連携のとり方について訓練を実施している。自社の流通センターにあるフォークリフト用のバッテリーなどの機材を荷主の発注センターに自社のトラックで運び、システムを復旧させる体制を構築している。「受注側の自分達だけが対策をしていても、事業は継続できません」と上田氏はこの訓練の重要性を説く。この訓練でも、スムーズに事業継続体制が構築できるよう工夫をしている。例えば、トラックで運んだバッテリーは、外部から長いケーブルで立ても何に引き込むことで時間を短縮。その接、バッテリーの接続ケーブルのプラス、マイナスを間違わないようにワニ口は使わず、コネクターが1セットになっているアンダーソンタイプを使用するようにしている。
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