2013/07/25
誌面情報 vol38
『プルーフ ・オブ ・ライ フ』 Proof of Life

地震、洪水、政治闘争、強盗、テロリズム…。 日常生活では一生に一回経験するかしないかのリスクも、 映画の中では、 日常茶飯事の出来事。アメリカでは、 映画シナリオライターが企業や自治体の BCP 訓練の被災シナリオを書くこともあります。 視点を変えれば、 映画は楽しむためだけのものでなく、 リスク管理の教材にも成り得ます。海外駐在員の誘拐をテーマにした 『プルーフ・ オブ・ ライフ』(2000 年製作) は、 ニューヨーク同時多発テロやアルジェリアテロ事件後の今見ると、決して映画の中だけの話ではなく、企業にとって “今そこにある危機” のように思えるのです。
<あらすじ> アメリカ人のダム建設技師ピーター・ボーマン (デイビット・モース) が南米テカラ (架空国家) で反政府ゲリラに誘拐された。 ロンドンのK&R (誘拐身代金保険企業) に籍を置く人質交渉人テリー・ ソーン(ラッセル・ クロウ) が早速南米に飛ぶ。 怯えるピーターの妻アリス (メグ・ ライアン) は、彼の冷静な行動に落ち着きを取り戻すのだった。 そしてテリーは人質交渉を開始。身代金を引き下げるために持久戦に持ち込もうとする。だが、 交渉は決裂し、テリーは同じ人質交渉人の仲間たちとピーターを救出すべく強行突入する。はたして、無事に人質を救 出できるのか…。 |
★緊急時の表現はシンプル
ダム建設技師のピーターが、 車中でゲリ ラに襲われた時、 咄嗟にこう言います。
Peter: No, I’m not part of this.
やめてくれ、 僕は関係ないんだ (部外者だ) 。
自分がこのような状況になった時を想 像して見て下さい。 咄嗟には、“I don’t do anything!”「何もしていない!」くらいしか言えないのではないでしょうか。
「関係ない」を英語で表現するのが以外と難しいことに気づきます。
緊急時は、 出来るだけ簡単 な表現で伝えるのがベストです。
ここではpart of( ~の中の一部)と表現しています。
同様に、 現地の同僚が本社に電話で事 件を説明する時も実に簡単な言葉で伝え ています。
No, it was completely random. Nothing definite at all.
ちがう、これは完全無差別だ。はっきりしたことはまだだ。
無差別テロは、“indiscriminate terror”ともいいますが、“random”「 思いつきの」の方が簡単です。 日本語でも焦っている時は、会話表現は短くなります。シンプルな言葉で表現できるように練習する必要があります。
★プロの人質交渉術
次に人質交渉の場面を見て行きましょう。
リスクコンサルタントのテリーは、 誘拐されたピーターの家族にこう言います。
Terry: For you it’s emotional, for the people, holding Peter, it’s a business. The sooner you get comfortable and objective about that, the easier this will be.
あなた達にとって悲しいことでも、 奴らにとって(人質)はビジネスなんです。 あなた達が早く落ち着くことができれば、この問題の解決も早くなることでしょう。
中学校で習った表現“The sooner~, the –er”「早ければ、~なる」です。テリーの意見は、 とても冷静です。
続いて、現地の警備員はゲリラと人質交渉する時に以下のように言っていました。
They always start with a big numbers. They want to get a first transfer.
始めはいつもふっかけてきます。 まず手付金を要求しています。
ここでの“big numbers”は、文脈から「大金」です。また、“a first transfer”は「手付金」となります。ちなみに、“numbers”を、“bucks”という言葉に言い換えて、“big bucks” とすると「大金」の意味になります。こうした生きた表現は、簡単な文ですが、なかなか思いつきません。この際、覚えてしまいましょう。
最後に、この映画の大きな見どころは、 実際の誘拐事件におけるリアルな交渉術です。危機管理の担当者にとって、普段見る事のできない欧米のリスク・コンサルティングの現場の仕事の醍醐味を垣間見ることができます。
誌面情報 vol38の他の記事
おすすめ記事
-
被災時に役立ったのはBCPではなく安全確保や備蓄
今号から、何回かに分け、内閣府「令和3年度企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」の結果を解説するとともに、防災・BCPの課題を明らかにしていきたい。第2回は、被害を受けた際に有効であった取り組みについて
2022/05/19
-
最後に駆け込める場所をまちの至るところに
建築・不動産の小野田産業は地震や津波、洪水、噴火などの自然災害から命を守る防災シェルターを開発、普及に向けて取り組んでいます。軽くて水に浮くという特色から、特に津波避難用での引き合いが増加中。噴火用途についても、今夏には噴石に対する要求基準をクリアする考えです。小野田良作社長に開発の経緯と思いを聞きました。
2022/05/18
-
新しいISO規格:ISO31030:2021(トラベルリスクマネジメント)解説セミナー
国際標準化機構(ISO)は2021年9月、組織向けの渡航リスク管理の指針となる「ISO31030:2021トラベルリスクマネジメント」を発行しました。企業がどのようにして渡航リスク管理をおこなったらよいか、そのポイントがまとめられています。同規格の作成にあたって医療・セキュリティの面から専門的な知識を提供したインターナショナルSOS社の専門家を講師に招き、ISO31030:2021に具体的に何が書かれているのか、また組織はどのようなポイントに留意して渡航リスク管理対策を講じていく必要があるのかなど、具体例も交えながら解説していただきました。2022年5月17日開催
2022/05/18
-
BCPは災害で役に立たない?
今号から、何回かに分け、内閣府「令和3年度企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」の結果を解説するとともに、防災・BCPの課題を明らかにしていきたい。第1回は、BCPの見直し頻度と過去の災害における役立ち度合いについて取り上げる。
2022/05/18
-
政府調査 BCP策定率頭打ち
内閣府は5月18日、令和3年度における「企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」についての結果を発表した。それによると、大企業のBCPの策定状況は、策定済みが前回の令和頑年度から2.4%伸び70.8%に。逆に策定中は0.7%減り14.3%で、策定済と策定中を合わせた割合は前回とほぼ同じ85.1%となった。政府では2020年までに大企業でのBCP策定率について100%を目標としてきたが頭打ち状態となっている。中堅企業は、策定済みが40.2%(前回34.4%)、策定中が11.7%(前回18.5)%で、策定と策定中を足した割合は前回を下回った。
2022/05/18
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2022/05/17
-
-
-
SDGsとBCP/BCMを一体的にまわす手法~社員が創り出す企業のみらい~
持続可能な会社の実現に向けて取り組むべきことをSDGsにもとづいてバックキャスティングし、BCP/BCMを紐づけて一体的に推進する、総合印刷サービスを手がける株式会社マルワ。その取り組みを同社の鳥原久資社長に紹介していただきました。2022年5月10日開催。
2022/05/12
-
企業が富士山噴火に備えなければならない理由
もし富士山が前回の宝永噴火と同じ規模で噴火したら、何が起きるのか? 溶岩や噴石はどこまで及び、降灰は首都圏にどのような影響を及ぼすのか? また、南海トラフ地震との連動はあるのか? 山梨県富士山科学研究所所長、東京大学名誉教授で、ハザードマップや避難計画の検討委員長も務める藤井敏嗣氏に解説いただいた。
2022/05/11
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方